播磨の冬の味覚がさらなる逆風に見舞われた。兵庫県は2日、県内の播磨灘の養殖カキから規制値を超えるまひ性貝毒が検出されたと発表。コロナ禍で需要が上向かない中、最盛期に出荷すらできない事態となった。影響は養殖業者にとどまらず、観光や飲食業にも広がる。「今年は特にできがよく、これからが書き入れ時だったのに…」。全国4位の水揚げ量を誇る産地から悲痛な声が上がった。
カキの加工場がずらりと並ぶ相生港(相生市相生)の鰯浜地区。水揚げ作業で活気づいていた浜は一転、静まり返り、むき身にする予定だったカキを海へ戻す業者の姿も見られた。
「11月からプランクトンの数値が上昇していたので祈るような気持ちだった。12月の規制値超えは記憶がない」。相生漁業協同組合カキ養殖生産協議会の田中重樹会長(59)は厳しい表情を見せる。
先月30日以降に販売したカキは、納品先に廃棄や返品を依頼した。出荷再開が遅れれば生食用の消費が多い時期を逃し、単価も下がってしまう。「何とか年末には自粛解除になってほしい」。願いは切実だ。
県姫路農林水産振興事務所によると、養殖の殻付きカキは県内水揚げ量が約8652トン(2018年)で全国4位。今回、貝毒が検出された姫路、たつの、相生、赤穂市が水揚げ量のほぼ全量を占める。
たつの市の室津漁協では、貝毒の可能性が伝わった1日夜に関係業者が緊急会合を開き、出荷分の回収を決めた。中川照央組合長(71)は「コロナによる需要減で価格が抑えられている中で大変なことになった」と困惑。出荷自粛解除には検査で3週続けて規制値を下回る必要があり、赤穂市漁協の大河優組合長(60)は「条件が厳しく、検査期間の短縮を望みたい」とする。
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ダメージは水産関係者以外にも及ぶ。室津漁港近くの料理旅館では、冬の客の8割以上がカキ料理を注文するという。経営者は「予約客におわびの電話をしないといけない。年内に再開できるのでしょうか」と焦りをにじませた。
カキはふるさと納税の返礼品にもなっている。たつの市では寄付1万円につき3キロの殻付きカキを贈るコースが人気だったが、急きょ、募集サイトへの掲載を中止。直近の出荷分については念のため食べずに廃棄するよう連絡した。
市の担当者は「味が良いと評判でリピーターも多い。貝毒が収まったら再び送ってほしいと励ましも受けている。規制値を下回るのを待つしかない」と話した。(小林良多、坂本 勝、直江 純、伊藤大介)









