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「最低限の生活底上げを」「具体的なビジョン明言して」岸田首相所信表明、県内の声

2021/10/09 09:53

 「分配なくして成長なし」。8日午後に初めての所信表明演説に臨んだ岸田文雄首相は、新自由主義から「新しい資本主義」への転換を打ち出した。新型コロナで社会システムは疲弊し、富める者と貧苦にあえぐ者の差はいっそう拡大している。衆院選(19日公示、31日投開票)を控え、兵庫県内の有権者らは首相の言葉にじっと耳を傾けた。

 首相が最優先課題として挙げたのがコロナ対策。日々、患者と向き合う西宮市の内科・消化器内科ますだクリニック院長の増田与也(よしや)さん(36)=西宮市=は、首相が言及した経口治療薬の年内実用化に注目。「解熱剤以外に処方できる薬があれば、大きな武器になる」と歓迎する。ただ、人流を抑制するための法改正に言及したが、「第5波の感染者急減を分析するのが先」とした。

 経済対策では、賃上げなどで消費や投資を活性化させる「成長と分配の好循環」を軸に、中間層の拡大などが盛り込まれた。

 「格差是正は、最低限の生活を底上げしてこそ」。路上生活者らを支援するNPO法人「神戸の冬を支える会」理事、觜本郁(はしもとかおる)さん(68)は力を込める。

 生活保護費の引き下げで「家も今日食べる物もない、ギリギリの生活を強いられる人が増えた」と強調。コロナで収入が減った人に無利子でお金を貸す支援策「特例貸し付け」に対しても、「生活苦の人に次々貸し付けても、借金が増えるばかりで生活再建につながらない」と憤った。

 神戸・三宮を中心に居酒屋など7店舗を展開する情熱ダイニング(神戸市)の池原晃喜(こうき)社長(54)は「全体的な経済対策だけでなく、具体的なビジョンも明言してほしかった」とする。時短営業などで落ち込んだ収益をカバーするため、新たにケータリング事業やサンドイッチ店を始めた。従業員の士気も上がっているといい、「経営者はみんな必死。前向きにチャレンジする人への支援を」。

 首相の「国民との丁寧な対話」との発言に、長男に重複障害のある武田純子さん(75)=神戸市東灘区=は「障害者の声も届くのでは」と期待する。NPO法人「にじのかけ橋」理事長として、重度の肢体障害児らを受け入れるデイサービスを運営。食事や送迎のための人手が必要だが、「慢性的に不足している」と苦悩を打ち明ける。障害者・児の特性に精通したケアマネジャーの育成などを求め、「高齢者と障害者、子どもの施策を隔てる縦割り行政をなくして」と訴えた。

 今春大学を卒業した男性(23)=宝塚市=は学習塾のアルバイトなどで生計を立てる。コロナで解雇された友人もおり、首相の若年世代への支援に注目。「大学卒業後の所得に応じた『出世払い』の支援など、聞こえのいいことはたくさん言ったけど、本当に行動に移してくれるの」と冷ややかに受け止めた。(井川朋宏、末永陽子、赤松沙和、佐藤健介、丸山桃奈)

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