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「小説で史実にスポットを当てるのも喜び。まだまだ書きたいものはある」と話す方政雄さん=尼崎市内
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「小説で史実にスポットを当てるのも喜び。まだまだ書きたいものはある」と話す方政雄さん=尼崎市内
「白い木槿」(新幹社)
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「白い木槿」(新幹社)

 兵庫県立湊川高校で31年間、教壇に立ち、退職後、作家に転身した方政雄(パンジョンウン)さん(70)=同県伊丹市=が受賞作を含め、これまで発表してきた作品の中から中・短編4作品を初の単行本「白い木槿(むくげ)」にまとめた。在日コリアンとして日本で生まれ育ち、創作の原動力はいつしか心に降り積もった「くすぶった思い」だと語る。(鈴木久仁子)

 「作品のほとんどは自らの経験」という方さん。県内初の外国籍教員として常勤講師に採用され、2011年には県の優秀教職員表彰、17年には在日コリアンとして初めて文部科学大臣功労者表彰を受賞した。多くの生徒に慕われたが、管理職へ道は閉ざされるなど人生の片隅にはいつも、差別と疎外感が張り付いた。定年後、ようやく、くすぶり続けた思いに向き合おうと大阪文学学校の門をたたき、小説を書き始めた。

 冒頭の「夾竹桃(きょうちくとう)の下で」は第37回大阪文学学校賞受賞作。登場人物は羽振りのよい在日コリアンの不動産屋とその家族で、やがて事件をきっかけに転落が始まる-。モデルは「小学校の頃の原風景」といい「金に困って、うちにテレビを売りに来てね。僕はうれしかったけど、売った家の子どもが見に来る。なんだか子ども心に罪悪感があった」と明かす。

 「光る細い棘(とげ)」も「家族が犠牲になった」というアスベスト公害を描く衝撃作だ。尼崎市のクボタ旧神崎工場で高度経済成長期に大量に使われた石綿。髪の毛の5千分の1と言われる微細な繊維が大気に飛散し、吸い込むことで工場の内外で中皮腫を引き起こした。自らも夏休みにアルバイトをしていた。「マスクもしないで集めてボールみたいに投げ合ったりしてた。何十年たってから亡くなるなんて想像もしなかった」。少年時代の経験がリアルな描写と人間模様を生み出した。「大勢の在日コリアンが働いていた。背景には日本でまともに就職できない事情もあった」

 作品はあくまでもエンターテインメント。声高に思いはぶつけない。小説を書くことは「層になった感情の膜をそっと、はがしていく作業。楽しんで読んでもらえる物語作りをこれからも続けていきたい」。

 新幹社。2千円(税別)。

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