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大月死刑囚の弁護人の一人だった足立修一弁護士。裁判のやり直しをあきらめていない=広島市内
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大月死刑囚の弁護人の一人だった足立修一弁護士。裁判のやり直しをあきらめていない=広島市内

 今年1月、広島拘置所。待合室のような場所で長いすに腰を掛けると、しばらくして制服姿の職員が近づいてきた。「確定しているため、(面会)できません」

 確定死刑囚はごく一部の例外を除き、外の人間と会うことはできない。送った手紙も渡されないという。

 1999年に起きた山口県光市の母子殺害事件。若い母親と赤ちゃんの命を奪ったとされる大月孝行死刑囚は、社会と隔絶されている。事件当時18歳と30日の確定死刑囚。判決確定から10年がたつ。いつ執行されるか分からないまま月日を重ね、41歳になった。

 「誤った判決だ。事実の認定と、成育歴を巡る問題が正しく検討されていない」。曲折を経た裁判で大月死刑囚を弁護した足立修一弁護士は、極刑に反対する。昨年12月にも接見し、裁判のやり直しを求める「再審」手続きなどを話したという。

 足立さんは、大月死刑囚が少年期に実母の自殺を経験し、父から体罰を受けていた事実から、「受けた虐待などが、彼の刑事責任能力に影響を及ぼした可能性がある」と説明。「少年A」が逮捕された97年の神戸連続児童殺傷事件に触れ、「神戸のように、家裁が医療少年院に送る道もあったはず」と話した。

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 「故意に命を奪ったなら死で償え」。交流サイト(SNS)では、少年に結果責任を問う声が高まりを見せている。今年3月末には、こんな投稿があった。

 「少年法いらんと思う。(中略)俺学生だけど普通に生きてたら殺人とかしない。法を守らないのに法に守られるのはおかしい」

 法学系の大学教員らに尋ねると、少年法の厳罰化に賛同する学生は少なくない。しかし、殺人事件に限らず、犯罪に関わった少年たちは、SNS投稿者が「普通に生きてたら」と考えるような成育環境とは限らない。

 山口直也・立命館大法科大学院教授(少年法)は、近年の米国少年司法の動きに注目する。

 山口さんによると、18歳未満を少年とみなす米国では、連邦最高裁が2005年に「犯行時18歳未満への死刑は違憲」とする判決を出した。これを境に、それまでの「少年厳罰化」の流れが逆流を始めたという。

 その裁判には、全米精神医学会と全米心理学会が、「25歳ごろまでの脳は未成熟」とする意見書を提出した。脳科学の視点から、少年が犯した罪の責任見直しを迫った。その後、虐待などの厳しい成育環境が脳に与える影響を指摘する研究者も出てきたという。

 ニューヨーク州とノースカロライナ州は、刑事手続きでの成人の対象を「16歳以上」から「18歳以上」に引き上げた。少年法適用年齢を段階的に、20歳未満に引き上げる方針の州もある。

 日本では、18、19歳に刑事裁判を受けさせる対象事件が拡大した。山口さんは「日本の少年年齢の見直しは、保護主義に傾く米国と逆の方を向いている」と指摘する。(霍見真一郎)

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