• 印刷
離婚後1年4カ月で養育費が途切れた女性。母子世帯の4人に1人しか養育費を受け取っていない=淡路市夢舞台
拡大
離婚後1年4カ月で養育費が途切れた女性。母子世帯の4人に1人しか養育費を受け取っていない=淡路市夢舞台
長女が将来の夢をまとめたメモ。女性の「宝物」だ
拡大
長女が将来の夢をまとめたメモ。女性の「宝物」だ
養育費の支払いを定めた「公正証書」。元夫からの養育費は途絶えた=淡路市夢舞台
拡大
養育費の支払いを定めた「公正証書」。元夫からの養育費は途絶えた=淡路市夢舞台

 全国で140万世帯に上るひとり親世帯。その多くを占める母子世帯が、離婚した夫から養育費を受け取っている割合はわずか24%にとどまるという。神戸市で高校2年の長女(16)を育てる女性(46)が受け取る養育費も、離婚後間もなく途切れた。不払いは10年で計約600万円に上る。(上田勇紀)

■突然の別れ

 女性はIT会社に勤めていた28歳のとき、3歳年下の男性と結婚し、同市内の女性の実家で暮らした。退職し、30歳で長女を出産。子育てにいそしんだ。

 離婚は36歳のときだった。「もう別れたい」。夫が突然、そう告げた。頭が真っ白になったが、「好きでも嫌いでもなくなった」という言葉に「争う気もなくなり、気持ちが切れた」。6歳の娘は女性が引き取った。

 離婚の手続きを終え、夫が出て行く日。リビングの机に「いままでありがとう」と置き手紙があった。娘には「またあそぼうね」。わずか2行の文面に、涙の跡があった。

■我慢の日々

 元夫は月5万円の養育費を、娘が学生の間まで振り込むと約束。公正証書を作成して取り決めた。半年間は振り込まれていたが、その後は途切れがちに。離婚して約1年4カ月以降は、完全に止まった。

 元夫は会社を辞め、九州に転居した。だが、教わった住所に手紙を送っても届かず、連絡は途絶えた。元夫の実家に尋ねても、「こっちにも生活がある」として取り合ってもらえなかった。裁判などは負担が大きく、二の足を踏んだ。

 その後の女性の暮らしは厳しかった。女性は当時、お菓子づくり教室を開く夢に向けてホテルの製菓部門で働いていたが、朝が早く、子育てを優先して退職。ハローワークに通い、神戸市の電機製造会社で派遣社員として働き始めた。

 手取りは月約12万円。両親との実家暮らしのため、家賃の支払いはなかったが、娘の将来のために年100万円の貯金が必要と考え、家計を切り詰めた。スーパーで割引された食材を選んで買った。肉は鶏と豚だけ。週末もお金のかかるレジャーは行かない。自分のためのものは、基本的に買わなかった。

 所得が一定以下のひとり親世帯に向けた児童扶養手当などは全て貯金に回した。苦しくても、両親に頼るのは嫌だった。娘の習い事などで教育費がかさむようになり、「喉から手が出るほど、お金がほしかった」と振り返る。

■「宝物」

 女性は転職活動を続け、42歳で大阪市の中小企業に正社員として採用された。次第に「自分のようなひとり親をサポートできる仕事がしたい」と思い描くようになり、働きながらキャリアコンサルタントの資格を取得した。

 新型コロナウイルス禍で、正社員として総合人材サービス・パソナグループのひとり親向け採用に合格。昨年12月から兵庫県淡路市の職場に通う。

 女性には「宝物」がある。高校入試を前に、長女が将来の夢を描いたメモだ。

 「私には心からほこれる母がいます。母は、仕事で失敗してもつらくても、絶対、私の前で泣いたり、あきらめるようなことはしません」「私もそんな風に一生懸命働き、誰かに尊敬されるような人になりたいと思うようになりました」(一部抜粋)

 女性は「娘の成長がうれしい」と喜ぶ。その上で「養育費があれば、暮らしは違っていた。支払う責任から、逃げられる世の中はおかしい。多くのひとり親世帯が苦しむ問題に目を向けてほしい」と訴えた。

     ◇

■養育費受け取る母子世帯24・3%、不払い解消へ本腰

 厚生労働省が約5年ごとに行う「全国ひとり親世帯等調査」(2016年度)によると、全国で母子世帯は123・2万世帯、父子世帯は18・7万世帯。ひとり親世帯の9割を母子世帯が占める。

 母子世帯で、母自身の平均年収は243万円。同居親族を含む世帯平均年収も348万円で、児童がいる世帯平均の半分にとどまる。母子世帯の母の預貯金額は、50万円未満が4割を占めた。元夫からの養育費は「現在も受けている」が24・3%。前回調査より4・6ポイント増えたが、依然低い。

 国は21年、家族法制の見直しを法制審議会に諮問し、養育費不払いの解消策などを検討している。兵庫県明石市は22年度、支払い義務のある親に市が働きかけ、それでも支払わない場合に市が3カ月分を立て替える支援策の準備を進めている。

 宝塚市も同年度、離婚や養育費を取り決める調停手続きをする際などの費用を助成する制度を設けた。同市の担当者は「支払いが口約束で終わらないよう、公正証書作成などを支援するところから始めたい」としている。

もっと見る
 

天気(9月7日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 20%

  • 37℃
  • ---℃
  • 40%

  • 35℃
  • ---℃
  • 20%

  • 35℃
  • ---℃
  • 30%

お知らせ