救急車は「ピーポー」、パトカーは「ウー」、消防車は「ウーカンカン」。当たり前のように街中に響くサイレン音だが、実は50年ほど前はすべて「ウー」という音だった。今の音になるまでに、何があったのだろう。製造に携わる大阪サイレン製作所(本社・京都府)に開発秘話を聞いた。
■ 消防団員にとって「まぎらわしく」
「昔、サイレンは法律でウー音に統一されていました。それで、火災と救急の音が同じで聞き分けられなくて困るという声があったそうです」。そう話すのは、2代目社長の上岡幹宜さん(63)。ピーポー音の開発は1960年代前半、先代で父の淑男さんが始めたという。
当時は火事が発生すると、地域の消防団が消火活動で現場に向かっていた。消防には「今のサイレン音は火事ですか」などの問い合わせが殺到した。「ウー」という音が鳴って消防団員が現場に向かったのに火事ではなかった-ということが珍しくなかったとか。サイレンが全て同じ音だと、消防団員にとって紛らわしかったのだ。
そこに目を付けたのが先代。フランスを視察中に聞いた「パーパー」というラッパ風の音を参考に、試作機を制作。市民の意見を聞くため、兵庫県神戸市消防局の協力を得て、同市東灘消防署と尼崎市の間で5年間、テスト走行をした。1969年には神戸市消防局の全救急車にピーポーサイレンを装着。多くの新聞で取り上げられ、「耳障りではない」「ドキッとせずに済む」などの声が寄せられた一方で、「緊急車らしくない」との批判もあった。とはいえ、やはり好意的な声が多く、翌70年、国は音の切り替えを各都道府県に通達した。
■救急車内にボタンはそのまま「ピーポー」
半世紀経ち、私たちの生活に馴染むピーポー音は進化を続けている。窓を密閉する車が増え、運転手の耳に届かないというケースに対応するため、接近時にウー音を使えるように。道を譲ってくれた人に好印象を与えたい自治体の意向を受け「ご協力ありがとうございます」の声も作った。訪日外国人が増え、観光地の京都などでは英語、中国語、韓国語の3カ国の音声を導入。夜、閑静な住宅街で走る時には苦情もあるといい、「音量に基準がある中で試行錯誤しています」と上岡さんは話す。
大阪サイレン製作所では、多数のサイレンを展示している。救急車の車内にあるボタン表記を見ると、ウー音は「サイレン」なのに、ピーポー音は「ピーポー」。そのまま、なのでした。
(まいどなニュース・山脇 未菜美)
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