神戸市西区の精神科病院「関西青少年サナトリューム」に入院中だった明石市の岡田幸子さん=当時(47)=が肺塞栓症で死亡したのは、違法な身体拘束が原因だとし、父親(81)が病院側に対し約9200万円の損害賠償を求める裁判を近く神戸地裁に起こす。岡田さんは7日間にわたって両手足と胴の5点拘束を受けていたという。
遺族によると、岡田さんは統合失調症のため同病院への入院・通院歴があり、2021年3月29日、道端で倒れるなどし、持病の悪化が見られたため翌30日に受診し、入院することになった。
病院の診療録には入院した夜、岡田さんが大声をあげなから廊下を走り回るなどの興奮、多動の症状があったとされ隔離。遺族に公開された病院内のカメラ映像にはしっかりした足取りで歩く様子が記録されており、興奮状態ではなかったという。
しかし、病院医師は4月2日、「多動または不穏が顕著な状態」と判断し岡田さんの身体拘束を開始。8日昼すぎ、岡田さんは容体が急変し、別の病院に搬送されて肺塞栓症で亡くなった。岡田さんのカルテには、身体拘束が7日間に及んでいたと記されていた。
身体拘束は精神保健福祉法に基づく厚生労働大臣基準で、代替方法が見いだされるまでの間のやむを得ない措置で、早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないとしており、対象患者として「自殺企図または自傷行為が著しく切迫している」「多動または不穏が顕著」「放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶ恐れがある」を挙げている。
遺族側は「生命保護の必要や重大な身体損傷の恐れが認められるような状況になかった。たとえ、開始時点で違法性がなかったとしても7日間も継続する必要はなかった」とする。さらに岡田さんは糖尿病を患っており、「肺塞栓症のリスクが高いのに予防のための措置や観察、検査を怠った」と訴えている。
岡田さんの妹は「姉は7日間も拘束されつらい思いをしながら亡くなった。身体拘束の違法性を問いたい」と悔しさをにじませた。
病院側は「取材に応じられない」としている。(中部 剛)
【杏林大の長谷川利夫教授(精神医療)の話】精神科病院の身体拘束は2003年に5109人だったが、13年には1万229人に達し10年で倍増。現在も高止まりの状態だ。まず身体拘束から始め、徐々に解除していけばいいという安易な感覚が広がっているのではないか。簡単に装着できる拘束具が普及したということも一因だろうが、人権上、重大な問題である。国内で身体拘束をしない病院もあるし、減らすことができる。