毎年、無数の新曲が生まれ、消えていく。Jポップの宿命である。だが、まれに長年歌い継がれるヒットが生まれる。平原綾香の「ジュピター」もその一曲だ。
原曲は英国の作曲家ホルストの名曲「惑星」の一曲。クラシックの作品をカバーするのは彼女の持ち味で、これまでもショパン、ラベルの作品に挑んできた。
惑星は7曲構成で、それぞれ太陽系の星であり、ローマ神話の神々を表す「火星(マーズ)」「金星(ビーナス)」の名が付く。「木星(ジュピター)」は4番目に登場する。
オーケストラ向けに創作された雄大なメロディーは、平原の伸びのある声と相まって、さらにスケールを増す。文字通り、宇宙のかなたへ響くようだ。
〈ひとりじゃない この宇宙(そら)の御胸(みむね)に抱かれて〉
ホルストの故郷・英国でも歌詞を付けて歌われてきた。第1次世界大戦後、多くの犠牲者を追悼する曲として広まった。
ウクライナの戦火が収まらない今年8月、平原は神戸・国際会館でジュピターを熱唱した。観客席に響く歌声は、あらゆる野望、欲望に屈しない気高ささえ感じた。
いつの時代も争いは絶えない。だが平原の歌も負けじと、人々を癒やし続けていくだろう。
(津谷治英)