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カズ獲得を望むヤス 兄弟「共闘」なら05年神戸以来

2021/12/21 16:53

 来季J2に降格する横浜FCの元日本代表FW三浦知良(54)が、出場機会を求めて移籍を模索し、複数クラブの争奪戦となっている。その一つ、4部リーグにあたる日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズ(三重)は、今夏から兄の三浦泰年氏(56)が監督兼ゼネラルマネジャー(GM)を務めている。

 三浦兄弟の「共闘」が実現すれば、2人がJ1のヴィッセル神戸にいた2005年5月以来、16年半ぶり。当時、泰年氏がコーチ(直前まで強化責任者)、カズがキャプテンという立場だった。

 元々は同じ選手として神戸の勝利を目指した間柄だ。互いを尊敬し合い、練習後に時間があれば三宮で昼食を共にするなど、良好な関係を築いていた。

 カズは神戸時代、ボランチやサイドバックを務めていた兄についてこう語っている。

 「ここまでサッカーをやってこられたのはヤスさんの存在があったから。基本的な生き方は違うかもしれない。だけど、プロとしての精神など『サッカーの線』は同じ。30代後半になった2人が、まさか同じチームでプレーできるとは思っていなかった。兄弟として本当に最高の幸せだと思っている」

 「小さいころ、ヤスさんはサッカーを100パーセントやって、終わったら休んでいる子だった。僕は50パーセントの力でやって、あとは遊びに行く子。今考えれば、それが僕なりのバランスだった。いつの間にか、僕も何事も全力でやるようになってしまったけどね。2つ若いのに、僕が先に引退してしまったら失礼だし、恥ずかしいという気持ちもあるんだ」

     ◇

 2003年の暮れ、泰年氏は突如、引退を表明する。楽天の三木谷浩史社長が率いる新会社への経営譲渡が決まり、神戸から選手獲得などの強化を担うチーム統括部長への就任要請を受けたためだった。

 記者会見で「正直悔いは残っている」と、現役への未練をのぞかせながらも「クラブから引退を決断できるモチベーションをもらった。限りなく現場に近い形の統括部長になりたい」と抱負を語った。

 日本代表として共に「ドーハの悲劇」も経験したカズについては「お互いに背中を追い掛けてやってきた」と話すと、涙をこらえられなかった。弟を戦力として使えるかどうかを見る立場になるが、「兄弟だからこそ厳しい目で判断したい」と決意を口にし、「彼の経験や姿勢をもっと極めてほしい」とエールを送った。

 そんな兄弟の神戸での歩みは、2005年5月に幕を閉じた。泰年氏は自身が招へいしたエメルソン・レオン監督の解任に伴い、退団。涙の引退表明から1年半近くが経っていた。

 カズも苦しんでいた。開幕から3試合連続ゴールを決めながらも、チームの不調、強化体制の刷新もあって夏にかけて出番を失っていった。そして7月、横浜FCへの移籍を決断。神戸はその年、J1で最下位となり、初めてJ2降格が決まった。

 あれから長い年月が過ぎ、泰年氏は国内外の多くのクラブで監督などとして経験を重ね、鈴鹿にたどり着いた。カズはJリーグ現役最年長選手となり、54歳の今も試合に出ることにこだわっている。昨季はJ1で1試合、1分の出場にとどまった弟の起用法を兄がどう考えているのか、興味がわく。

     ◇

 獲得交渉の進展には、懸念材料もある。

 鈴鹿は今月12日、元執行役員から計7500万円の不当な金銭要求を受けていると公式サイトで発表した。元役員はSNSで内部告発とする投稿を繰り返し、クラブは事実ではないとして、三重県警鈴鹿署と弁護士に相談したという。

 来季に向け、大阪府内で自主トレーニング中のカズは今月15日、「心配していろいろ連絡が来る。僕も心配ですけどね。自分の兄貴がいるんで」と話し、冷静に動向を見守っている。

 鈴鹿は今季JFLで4位となり、一つ上のJ3昇格を目指して強化を進めている。他のクラブもそうだが、カズのサッカーに向き合う真摯(しんし)な姿勢や知名度の高さがチーム浮上の起爆剤になると考えているようだ。

 獲得オファーをもらった全クラブの思いを聞き、カズは年内に決断を下す。兄弟の歩む道は再び交わるのか。(小川康介)

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