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明石海峡大橋が開通し、整備された舞子=神戸市垂水区東舞子町、舞子公園
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明石海峡大橋が開通し、整備された舞子=神戸市垂水区東舞子町、舞子公園
1958年ごろの海神社周辺。大鳥居の目の前には砂浜が広がっていた(垂水区役所、垂水の資料館出典)
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1958年ごろの海神社周辺。大鳥居の目の前には砂浜が広がっていた(垂水区役所、垂水の資料館出典)
1907年ごろの舞子の浜の夕景(兵庫県立舞子公園百年史出典)
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1907年ごろの舞子の浜の夕景(兵庫県立舞子公園百年史出典)
1984年ごろの舞子公園。砂浜は消え、ブロック塀などが続いた(兵庫県立舞子公園百年史出典)
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1984年ごろの舞子公園。砂浜は消え、ブロック塀などが続いた(兵庫県立舞子公園百年史出典)
神戸新聞NEXT
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 「高度成長期、舞子は松が少しだけあって砂浜がなく、垂水には松がなかったけど砂浜があった」。取材で出会った神戸市垂水区在住約60年という男性の言葉に「あれ?」と思った。現在の舞子地区といえば、舞子公園の松林と、海水浴客でにぎわう「アジュール舞子」の砂浜のイメージが強い。反対に、舞子の東側の垂水地区は大型商業施設があり、砂浜は影も形もない。この半世紀ほどで、隣接する浜辺の様相が激変したのだろうか。住民の証言や資料を基に、名所の今昔をたどった。(丸山桃奈)

 男性は、野口周志(ちかし)さん(72)。昨年4月、垂水の海を望む前方後円墳「五色塚古墳」の歴史を振り返る企画展で出会った。

 「垂水の砂浜を、みんな『垂水の浜』と呼んでいたかな。小学校の水泳教室があって、10メートルを泳いだ証明書をもらってうれしかった記憶がある」。野口さんの思い出話を聞いているうちに、舞子と垂水の「砂浜と松」への関心が高まった。

■景勝の舞子、別荘の垂水

 まず、神戸市立中央図書館(同市中央区楠町7)で歴史を調べてみた。古くからの景勝地として知られていたのは、舞子らしい。

 江戸期には「白砂青松(はくしゃせいしょう)」と呼ばれ、浮世絵師の歌川広重が、海岸に松並木が続く風景を描いた。大正期にも、志賀直哉が小説「暗夜行路」で「白い砂浜の松の根から長く網を延ばして、もう夜泊りの支度をしている漁船がある」などと叙情的につづっている。

 明治期には、県が1900(明治33)年、初めての県立公園として舞子公園を整備。当時の松林は、東西1・7キロ、南北40メートルにわたって広がり、まさに松一色だったという。

 だがその後、開発によって砂浜と松林が織りなす景観は失われていく。2001年に出版された公園の100年史によると、塩害の深刻化と、公園の南側を走る国道2号の拡幅工事によって、昭和初期には老松がほとんど取り除かれた。

 1955(昭和30)年以降、高度成長期の人口増で駅やバスターミナルの整備が進み、松林はさらに減少。69年の園内の調査では、直径20センチ以上の松は約200本しかなかったという。

 砂浜も、1898(明治31)年には約80メートルの幅があったが、12年後には護岸の設置などにより3分の1程度に縮小。1952(昭和27)年には、防砂突堤なども加わり、ほぼ消滅している。

■変わりゆく景色

 一方の垂水はどうか。明治期、海沿いの塩屋地区は、風光明媚(めいび)な避暑地として外国人らの別荘地が並んでいたという。戦後になると、北側の開発も進み、住宅地が増えていく。

 垂水区海岸通9に住む三浦俊夫さん(66)が、幼少期を振り返る。「垂水の浜の西側は別荘が広がり、東側は漁港となった。垂水駅近くの海神社の『浜大鳥居』も、当時は海のすぐそばにあった」

 だがその後、埋め立てによる開発が進む。99年に商業施設「マリンピア神戸」がオープンすると、子どもたちに親しまれた「垂水の浜」は姿を消した。

 対する舞子では、往時の名勝を復元する取り組みが本格化した。100年史によると、老松の衰退を防ぐ保護策が1965(昭和40)年に始まると、新たに5400本の松が植えられ、現在も松の保護は続く。

 地域活性化の道も模索され、かつての「舞子の浜」を復元しようと、東西約800メートルの人工砂浜「アジュール舞子」が整備された。

■変わらぬ思い

 市街地整備、塩害、大規模な建設計画…。さまざまな要因によって、時代とともに姿を変えてきた二つの浜。改めて、取材の取っかかりとなった舞子公園の松林を訪れてみた。

 園内に残る1629本(2021年10月現在)の松に囲まれながらベンチに腰掛けていると、帽子をかぶった高齢の男性が歩いてきた。一本の松の前で立ち止まる。ポンポンと幹をたたき、つぶやいた。

 「来たで。元気か」

 男性は、北側の住宅地から散歩で訪れた金月文彦さん(82)。声を掛けると、照れた表情で理由を明かしてくれた。

 「父が力松という名前でね。歴史はよく分からないけど、ここに来るたびに、一番大きい松に話しかけるんです。一番長生きしている松。力強く生きてきたんだなと」

 松をまっすぐに見つめる金月さん。最後も、優しく松に声を掛けて立ち去っていった。

 「また、来るからね」

 時を経て風景は移ろうが、地域の松や砂浜に自身の思いを重ねる人がいる限り、「白砂青松」は形を変えながらも未来へと受け継がれていく。

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