連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

骨董漫遊

  • 印刷
石橋和訓が描いた新潟・小千谷の実業家、西脇国三郎の肖像画
拡大
石橋和訓が描いた新潟・小千谷の実業家、西脇国三郎の肖像画

 画家の石橋和訓(かずのり)が描いた肖像画をめぐる不思議な物語を続ける。私が別々に買い求めた、女性と男性の肖像画のモデルは夫婦だったようだ。今も原稿を書きながら、興奮を抑えきれない。

 ネットオークションに出ていた写真の説明書には、「小千谷古文書古写真 明治30(正しくは20)年 銀行家西脇国三郎ご夫妻」とあった。

 すぐに西脇国三郎(1854~96年)について調べてみる。新潟県小千谷の豪商の一族で、鉄道や銀行などの経営に関わった実業家。ノーベル文学賞の候補になった詩人、西脇順三郎の親戚筋にあたる。妻については、名前も生没年も分からない。

 ここで二つの疑問が浮かんだ。一つは、妻の肖像画の顔が夫より老けているのはなぜかということだ。

 以下は私の推理である。

 夫妻の長男と石橋は同時期、英国に留学しており、旧知の間柄だったのではないか。後年、石橋と再会した長男は老いた母の肖像画を描いてもらう。その際、20年以上前に故人となった父についても制作を依頼し、壮年期の国三郎の写真を提供する-。

 私が入手した国三郎の絵には制作年が記されていなかった。私の推理のようないきさつであれば、石橋があえて記さなかったのかもしれない。

 疑問の二つ目。夫婦なのに着物の家紋がなぜ違うのか。

 調べてみると、嫁いだ女性が実家の家紋(女紋)を使う慣習がある地域が、現在でも存在していた。家紋が異なっても夫婦-というのは、私にとって驚きだった。

 肖像画や写真が市場に出回っていた理由はなんとなく分かる。地方の旧家などが蔵の整理を骨董(こっとう)業者などに任せた際、大事な品とは気がつかないまま、売りに出てしまうケースがよくあるのだ。

 私のなじみの古美術店主は地方を回って、蔵ごと買い付けている。古伊万里(こいまり)や古布でもあればというのが、そもそもの目的だったとしても、蔵の中には何が隠れているか分からない。“番外”の油絵が交じることも珍しくないようで、しばしば声が掛かる。

 「きのう大阪の旧家で仕入れた初荷(うぶに)の油絵だよ」。そんな口上とともに、有名画家の自筆?サインを示されれば、私としては「本物?」と思いながらも、美意識が反応して“お買い上げ”となる。拙宅に絵画の類いがあふれている理由が、お分かりいただけるだろう。

 石橋作品を研究する島根県立美術館のA学芸員によると、留学先の英国には知られざる作品が複数残っている可能性があるという。それらを一堂に集めた本格的な絵画展の開催を期待する。その際は、喜んで手元の2枚の肖像画を貸し出すつもりである。

 (骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)

2020/12/14
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • 28℃
  • 40%

  • 33℃
  • 25℃
  • 50%

  • 34℃
  • 28℃
  • 20%

  • 34℃
  • 27℃
  • 40%

お知らせ