社説

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 核拡散防止条約(NPT)の運用状況を検証する再検討会議が米ニューヨークの国連本部で開幕した。岸田文雄首相が日本の首相として初めて出席し、演説した。

 被爆地・広島選出の首相として、核兵器廃絶への決意を世界に示す好機と捉えたのだろう。日本は唯一の被爆国である。「核なき世界」の実現に向けた呼び掛けには大きな意義があったと言える。

 ただ、日本は安全保障面で米国の「核の傘」に依存し、一方で核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する。そうした曖昧さは今回の首相演説でも払拭できなかった。

 被爆者らを落胆させたのは、核兵器禁止条約への言及がなかったことだ。禁止条約に反対する米国に配慮したとされるが、本気度に疑問符を付けられても仕方がない。

 191の国・地域が加盟するNPTは米国、ロシア、中国など5カ国に核保有を認め、核軍縮の義務を課す。これに対して66カ国・地域が批准する核禁止条約は、核の開発、保有、使用、威嚇などあらゆる活動を禁止する。核保有国や日本などの同盟国は参加しておらず、溝を埋める努力が課題とされてきた。

 今年になって核保有国のロシアがウクライナに侵攻し、核の使用を示唆して批判する他国を威嚇する。それに対抗して核による抑止力を高める動きが広がり、核廃絶の流れが壁に直面しているのは事実だ。

 だが、首相は核禁止条約について「究極の規範」とも評価している。「最終的に目指すところは同じ」と演説で明確に語るべきだった。

 再検討会議は5年に1度開かれるが、新型コロナの影響で7年3カ月ぶりの開催となった。26日までの議論で最終文書採択を目指す。

 前回2015年は中東の「非核地帯構想」で米国とアラブ諸国が折り合わず、決裂して文書採択に至らなかった。今回はウクライナ侵攻を巡って米欧などとロシア、中国が対立しており、全ての参加国が合意形成に尽力する必要がある。

 今回、首相は核不使用の継続などを訴える行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」や、世界の若い世代を広島、長崎に招く「ユース非核リーダー基金」の創設、政治リーダーらによる「国際賢人会議」の広島での11月開催などを打ち出した。来年は広島でG7サミット(先進7カ国首脳会議)を開く。日本が「核なき世界」を願う国や人々をつなぎ、存在感と信頼を高める時だ。

 今回の演説で、首相は「現実的な歩みを一歩ずつ」と強調した。言葉通り、着実に外交力を発揮してもらいたい。取り組みの実効性が問われることを忘れてはならない。

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