地エネと環境の地域デザイン実行委員会は、農業廃棄物を生かしたバイオガス利用などで農と食、エネルギーの資源循環を実現しているイタリア・カラブリア州の協同組合「ファットリア・デッラ・ピアナ」の農場の視察を行った。


農場でバイオガス発電
カラブリア州は長靴に例えられるイタリア半島最南端の「つま先」にあり、南西のメッシーナ海峡の対岸にはシチリア島がある。地中海性気候で気温は兵庫とよく似ている。農業では、ワイン用ブドウ、オリーブ、ベルガモットなどのかんきつ類の生産が盛んで、赤タマネギやイチジクなども特産となっている。
ファットリア・デッラ・ピアナは、乳牛900頭の牛乳などをチーズに加工して国内や海外にも販売する。通常90人、農繁期には130人が働く農場では、牛舎、チーズ工房、レストランとともにバイオガスの生産設備や発電機が整備されている。
バイオガス関連の設備は2008年に400万ユーロの資金を投入して建設された。11年にはもう1基導入された。肉や乳製品が食生活の中心である欧州では、大量に発生する家畜ふん尿が環境問題となっている。農家にとってもその処理は大きな経営負担であり、解決策としてバイオガス事業が普及している。
「ふん尿やチーズ生産過程で出る廃棄物のほか、周辺のオレンジやオリーブ農家も皮や絞りかすの処理に困っていた」と代表のカルメロ・バジレさん。
牛舎には出力198キロワットのソーラーパネルが設置され、得られた電気は農場内で利用する。ふん尿は自動化された機器で二つの大きな発酵槽に投入される。
発酵槽内部には微生物の働きを促すための五つの攪(かく)拌(はん)機があり、投入したふん尿などの有機物を基にメタンなどのバイオガスが生産される。ガスは燃焼させ、お湯や発電に使われる。発電能力は1000キロワット。24時間稼働させ、ガスの発生状況などは担当者がタブレットで把握し、遠くにいてもコントロールできる。千時間ごとにメンテナンスしている。

8割は売電、お湯はチーズ作りに
メタンガスで作る電気の2割は自家消費し、残りの8割は売電する。売電益は年間400万ユーロになるという。お湯はチーズ作りなどで利用する。バイオガスの生産に合わせて得られる消化液は液体肥料として畑で活用する。
畑は、飼料用トウモロコシ2作、小麦1作と半年間の休耕という2年サイクルで利用。消化液は年に2、3回散布し、化学肥料は使用しない。消化液は、農場内の研究施設で成分分析などを常に行い、データを蓄積しながらガスの生産管理や栽培に活用している。「消化液はミネラルと微生物が豊富でいい土をつくる」とバジレ氏は効用を説く。
兵庫からの実行委メンバーの視察は、日本のNHKにあたるイタリアの公共放送が取材し、テレビで放送された。

「地エネ」活動に関心
▽トリノで歓迎会見
南北に長い国土と多彩な四季、そして世界に誇る食文化など、多くの共通点を持つ日本とイタリア。人の農と食の営みから必ず生じる廃棄物を生かして循環型社会の基盤にしようという「地エネと環境の地域デザイン」の取り組みは現地でも高い関心を集めた。
イタリア全20州のうち、スローフードやプロサッカーのユベントスで有名な北のピエモンテ州と南のカラブリア州の州議会議長が出席して歓迎の記者会見がトリノ市で行われた。
会見には、トリノ市で開催されたスローフードのイベント「テッラ・マードレ」などの関係者も出席。地域に根ざした環境負荷の少ないスローフードを重視した食生活や、環境、自然エネルギー、農業などで意見が交わされた。
実行委からは安原潤神戸市食都神戸担当部長が資源循環のまちづくりを紹介。食とエネルギーを通した交流を呼びかけると大きな拍手が送られた。
今回の視察をきっかけに、食と環境、エネルギー循環による持続可能な地域づくりに向けた兵庫とイタリア各地との交流がより深まることが期待される。

神戸、三木で親子体験学習
▽バイオガスやリサイクル
地エネと環境の地域デザイン実行委員会は、神戸市北区の弓削牧場で地域資源を生かす自然エネルギーの体験学習を開催した。小中学生の親子ら約20人が、家畜のふん尿などを原料としたバイオガス利用の取り組みを学んだ。
小規模酪農家でも導入できる設備を神戸大などと研究する弓削忠生牧場長らが案内した。牛の飼育から、チーズ作り、レストランを紹介。農業と食品産業で必ず生じる廃棄物を発酵させてエネルギー利用することの重要性を語り、ガスをお湯や発電に生かす研究について説明した。
環境をテーマにした体験学習は兵庫各地に広がっている。大栄環境グループとイオンアグリ創造などによる「第4回三木かんきょうフェスティバル」が、三木市の大栄環境三木事業所であった。
親子連れら約3千人がリサイクル堆肥を使ったミニトマトの植え付けやヒーローショーを通じて食の大切さやリサイクルについて理解を深めた。同事業所では、イオングループの店舗から集めた食品廃棄物を堆肥にし、隣接するイオンアグリ創造の三木里脇農場で活用している。
防災と自然エネルギー、テーマに神戸3か所でイベント
▽11、12月 太陽光調理器作りや実演
「防災&自然エネルギー ~災害に強い地域づくり」と題する連続イベントが11、12月に神戸市内である。地エネと環境の地域デザイン実行委員会の主催。
11月3日は神戸市中央区ハーバーランドの「カルメニ」1階の神戸新聞まつり会場で、神戸市立神港橘高校の生徒らによるワークショップ「ソーラークッカー(太陽光調理器)を作ろう!」を開催。午前10時半~、午後1時半~の2回(各回先着6人)。参加無料。
10日は同区の東遊園地での食都神戸デ―に里山資本主義の体験ブースを設置する予定で、街路樹のせん定枝などを炭にする無煙炭化器の実演などがある。
12月1日午前10~午後3時には、西区の神戸ワイナリーで開かれる「こうべ地域のたべもの祭り」で、食とエネルギーの地産地消や防災をテーマとした展示や実演を予定している。