金融商品取引法違反の疑いで兵庫県警に逮捕された元会社役員の男(56)に対しては、出資金が返金されないとして、県内や大阪府などの男女ら14人が損害賠償を求めて大阪地裁に提訴している。被害者の会の代表を務める東播地域の男性(51)は「仮想通貨に関する知識が豊富でトークもうまい。(男を)神様のように信じてしまっていた」と肩を落とす。
男性によると、男との出会いは2017年末、神戸・三宮のセンタープラザで開かれた仮想通貨「ビットコイン」の投資セミナー。派手なPR動画が流れた後、「ハワイ帰りの成功者」との紹介で登壇したのが、男だった。
外見は一見地味な中年男性。よく見ると、身に着けたスーツや時計は高級品で、仮想通貨に関する膨大な知識を淡々と語った。「派手じゃない雰囲気で、警戒心を解いてしまった」
新規発行の仮想通貨を獲得する「マイニング(採掘)」事業に投資すれば、2年目から高配当を得られる。勧誘の言葉に違和感は持たなかった。「今、この情報を持っているのはあなたたちだけ。いち早く情報をつかんだ者が成功する」とせかされ、100万円を振り込んでしまったという。
男が開いた無料通信アプリLINE(ライン)のチャットをのぞくと、出資者は200人以上いた。だが数か月後、運用益を確認するサイトが閉鎖されるとチャットは荒れた。男性は「何度も回答を迫ると、連絡すら取れなくなった。そもそも運用していたのかすら怪しい」と悔やむ。
他の仮想通貨や個人投資ファンドなど、返金されていない出資金は妻の分と合わせて約500万円。男性は20年7月、出資者と被害者の会を結成した。14人で計5100万円の損害賠償を求めている。
関係者によると、男は「そもそも原告と会ったことがない」「説明したのは自分ではない」などと主張しているという。
兵庫県加古川市の女性会社員(45)も、預けた1200万円以上が返金されていないという。男からは仮想通貨など10件近い投資先を紹介され、いずれも信じた。渡された契約書に「元本保証」「月利10%」と書かれていたケースもあったという。女性は「将来、子どもに使いたいと思っていたお金だったのに。悔しい」と憤る。