オリンピックは、アスリートだけでなく、その能力を最大限に発揮させようとするスポーツメーカーの戦いの場でもある。1964年東京五輪で日本競泳陣に最新の水着を提供したミズノ(大阪市)は、2020年東京五輪に向けて競泳用水着「GX」シリーズを進化させてきた。同社の技術革新の歩みや、五輪に懸ける担当者の思いを取材した。(中務庸子)
兵庫県の東部、丹波市氷上町。山間ののどかなまちにミズノテクニクス氷上工場がある。ミズノの国内生産拠点の一つだ。多種多様なミシンが所狭しと並び、女性たちが手際よく、しかも寸分たがわぬ正確さで製品を縫い上げていく。
ここはプロ野球や学校運動部チームのユニホーム、アスリート向けのオーダーメード品など、少量品目の製造が中心だが、GXシリーズの試作・開発も手掛けている。
トップ選手の声を反映させながらの微調整は苦労も多いが、この道11年の道本美和さん(37)は「できるだけ要望通りに仕上げてみせます」と自信を見せる。
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1952年、ミズノが手掛けた競泳用水着は綿糸を編んだ生地で作られていた。56年には素材が絹に代わったが「プールに入るとたちまち水を吸って重くなったそうです」と、歴代の競泳水着に詳しい同社グローバルアパレルプロダクト本部の松崎健さん(61)は話す。
60年にはナイロン製になり、東京五輪で日本選手団にも提供した。ただ、伸びにくい生地の性質上、首回りの開口部を大きくしたり、生地を上下で分けて縫製したりする必要があった。「フィット性や水の抵抗などは考慮されていなかった」と松崎さん。
現在の水着の原型が誕生したのは70年代。伸縮性のある「ポリウレタン弾性糸」の開発でフィット性が大幅に向上した。80年代後半には水の抵抗の測定など科学的アプローチを取り入れ、全身を覆う製品も開発した。
ところが大きな転機が訪れる。英・スピード社の「レーザーレーサー」の登場だ。「五輪は企業の科学技術ではなく、選手の能力を競う場だ」。08年の北京五輪で、優勝した選手のほとんどがこの水着を着ていたことを受け、国際水泳連盟(FINA)は10年、公平性などの観点から生地や構造、浮力などを細かく規定する厳しいルールを定めた。
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FINAルールにより、水着の差別化は難しくなった。だがミズノは11年、規定を満たしつつ、摩擦抵抗を少なくしたGXシリーズを発表する。位置によって素材を切り替えたり、伸びにくいテープを配したりした構造が特長だ。体幹を支えることで理想的な泳ぎの姿勢を維持する。
ただ、開発は一筋縄ではいかなかった。つなぎ目の凹凸をなくすため、パーツは超音波の熱で溶着する。しかし、選手に試泳してもらうと、一部の接合部分の強度に不安が残った。
同シリーズ企画担当の大竹健司さん(42)は「これまで200回以上、氷上工場で試作を繰り返した」と明かす。負荷がかかりやすい股関節部分は、糸で「かんどめ」を施して補強するなど随所に工夫を凝らした。「初期のGXと比べれば、最新モデルはずいぶん変わりましたね」と道本さん。細やかな日本のものづくりが、進化を支えている。
【ミズノの競泳用水着】1965年から英・スピード社と共同開発を行ってきたが、2007年に契約を解消。自社ブランドでの戦略強化を進め、現在、競泳日本代表選手の使用率が最も高い。15年の世界選手権では男子50%、女子50%、19年の世界選手権では男子50%、女子36%に上る。20年東京五輪への出場が期待される大橋悠依(24)や渡辺一平(22)にも提供している











