昨年10月、88歳で亡くなった女優八千草薫さんをモデルに、昭和を代表する洋画家小磯良平が描いた肖像画が2月、神戸市立小磯記念美術館(同市東灘区)へ寄付された。八千草さんの自宅に長年飾られていた絵で、生前からの本人の意向で遺贈することに。4月10日から、同館で催される所蔵品展で公開される。
1956年制作の油彩画で、縦45・7センチ、横37・9センチ。何かを見つめるかのような表情を、ラフな筆さばきで捉えた。八千草さんは当時25歳で、宝塚歌劇団に在籍し、映画でも活躍。小磯が直接、申し出て、東京・世田谷の八千草さんの自宅で制作したという。
小磯はそのころ東京芸術大教授で、同年2月の雑誌「週刊朝日」の表紙絵のため、八千草さんを描いたが出来ばえに満足できず、個人的に再び描いたようだ。「絵は小磯がプレゼントした可能性が高い」と同館の廣田生馬学芸員。
八千草さんはモデルとなったことについて「小磯先生は神戸の方で、私も戦前は六甲に住んでいて、神戸っ子。先生の神戸弁はとても懐かしい」「絵のモデルは初めて。怖いような、でも楽しみなドキドキした気持ち」と語っている。抑えた色調で、清楚な雰囲気をたたえた絵は、映画監督の夫、谷口千吉さんもお気に入りの一枚だったという。
廣田学芸員は「素早いタッチの絵だが、モデルの内面にまで迫るような魅力があり、肖像画の名手・小磯の巧みなデッサン力、洞察力がよく表れている。ぜひ多くの人に見てもらいたい」と話している。所蔵品展は7月12日まで。同館TEL078・857・5880
(堀井正純)