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前NHK副会長、堂元光さん=宍粟市山崎町の揖保川
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前NHK副会長、堂元光さん=宍粟市山崎町の揖保川

 NHKの生え抜き職員トップの役職、副会長を2期6年間務めた兵庫県宍粟市山崎町出身の堂元光さん(69)が今年2月に任期満了で退任し、このほど故郷にUターンした。放送業界は今、インターネットやスマートフォンの普及で若者のテレビ離れが進み、2019年のテレビ広告費が初めてネット広告に抜かれるなど、大きな転換期を迎えている。公共放送を陣頭指揮してきた立場から、新聞や雑誌も含めたメディアの未来をどのように見ているのだろう。神戸新聞宍粟支局長を務める私としては、半世紀ぶりの故郷での暮らしぶりも気になるところだ。揖保川沿いにある、田畑に囲まれた実家を訪ねた。(古根川淳也)

 ー副会長就任時の経営委員会で「退任したら一日も早く播州に帰り、美しい山河の中で人生を終えたい」とあいさつされたそうですが、本当にすぐ帰って来られましたね。

 「山崎で生まれ、山崎で死ぬという思いが染みついていた。山崎高校を卒業し、故郷を離れて50年になるが、その思いは変わらなかった。やっぱり田舎暮らしはいい。生涯青春、地域ざんまいですよ」

 ー子ども時代の思い出は?

 「当時は揖保川で遊ぶしかない。大雨で水かさが増しても泳ぎに行った。NHKにいる間も、夏に帰省して揖保川で泳ぐのを欠かしたことがない。川に漬かって、山を見るのが最高ですよ。それが向こう1年間の力になった」

 ーテレビ番組をネットで常時同時配信する「NHKプラス」が4月から本格始動しました。放送と通信が融合する時代の「パンドラの箱」とも言われます。ネットとメディアの将来をどう予想しますか。

 「スマホが登場して若者のテレビ離れ、活字離れが進んだ。新聞などの既存メディアは、1面からテレビ欄まで全部見てもらうという百貨店方式で来たが、見たい映像や記事を検索し、必要なものだけを見る視聴習慣が浸透している。テレビの定時性が崩れ、ドラマなどは録画で見る割合も増えた。アマゾンなどでテレビ番組が見られるし、ニュースはポータルサイトで見る人が増えているようだ」

 「NHKプラスでは見逃した番組が見られ、受信契約者にとっては利便性が向上する。こうしたサービスは、既存のテレビ局では遅れていた。とはいえ、民放で本格的にネット配信できるのは東京のキー局など一部に限られるだろう。地方の民放は東京で作った番組を県域で流し、事業として成立している。それが東京からネット配信されると、存在価値が薄れてしまう」

 ーコンテンツの時代ですね。地方もネット上で勝負できる制作力が問われています。

 「その通りだが、ビジネスモデルとして成立する正しい答えが見つからない。昨年はネット広告費がテレビを上回った。この流れは変わらないだろう。放送と通信の融合というだけでなく、既存メディアは新聞・雑誌も含め、大変革時代に突入した観がある。金融、鉄鋼など産業界は統合をやってきた。メディア界も将来、淘汰(とうた)と再編への動きが出てきても不思議ではない」

 ーメディアの垣根を越えた統合が進むかもしれない、と?

 「直ちにダイナミックな動きが起きるとは思わないが、先々どのような展開になるか読めない。ネット時代でメディア環境が激変しているのは確かだ。NHKは公共メディアの将来像、民放は新しいビジネスモデルの構築、新聞は紙媒体戦略の再構築が課題になっている。メディア界は思い切った構造改革を断行できるのか、待ったなしの決断を迫られている」

 ーメディア激変の時代、記者を含め、表現に関わる者はどのような姿勢で臨むべきでしょう。

 「マスコミは何のためにあるのか、と言うと『世のため人のため』にある。世の中に自分の記事や番組が受け入れられているのか、評価されているのか。そこに尽きるのではないか。若者のテレビ離れと言うが、映像文化から逃げているわけではない。放送もユーチューブも、映像文化であることに変わりはない。新しい表現に挑戦し、何でも見てやろう、聞いてやろうという精神はこの業界の根底にある。ただ、いいものは作るが、極力お金をかけないという姿勢は必要。これから、ますますそうなる」

 ー一部には、NHKは政治的な問題から腰が引けている、官邸に配慮しているという批判もあります。どう思われますか。

 「長年、政治報道に関わってきたが、官邸への配慮などみじんもない。安倍政権であれ、どの政権であれ、政治との距離感をしっかり保つ。そして、公平公正・不偏不党に徹するのが公共放送だ」

 ー副会長の任期中には不祥事がありました。どんな姿勢で臨みましたか。

 「副会長になって最初に直面した問題が、ある報道番組のやらせ疑惑だった。NHKは世の中から信頼されているという自負がある。だから、ほんまもんの情報を出さないといけない。やらせがなくとも、ほんまもんでなければ謝罪すべきだ、と早い段階で決めた。責任問題が生じたら甘んじて受ける。さまざまな不祥事があったけど、僕の基本はそう。正直に、愚直にやる。世の中に通じないような反論はすべきではない。出直すしかない。ところで、故郷への思いをもっと聞いてほしいな」

 ーぜひお願いします。

 「50年近くNHKにいて、一番感動したのは大河ドラマ『軍師官兵衛』が放送されたとき。山崎城が3回出てくる。そして、山崎高校出身の紅白歌手誕生(丘みどりさん)。東日本大震災の直後、山崎小学校の児童が合唱で被災地にエールを送る姿が、夜7時のニュースの最後に流れたのも感動ものだった。故郷の魅力はやっぱり揖保川ですよ。子ども時代に川遊びして、山を見て」

 「東京だけでなく大阪でも、宍粟を『しそう』と読める人に出会ったことはほとんどなく、悔しかった。これからの地方は新聞やテレビ、そしてネットをもっともっと活用して、知恵を絞ることがすべてでしょう。『楽しそう』『おいしそう』『恋しそう』のキャッチフレーズは響きますね。音水湖での聖火リレーは絶好のチャンス。宍粟の名を全国へ、世界へ。夢が膨らみます」

【どうもと・ひかる】1951年宍粟郡山崎町(現・宍粟市)生まれ。早稲田大学卒業後、NHK入局。政治部記者として首相官邸キャップなどを担当し、政治部長、報道局長、大阪放送局長などを歴任。副会長を2期務めた。

【記者のひとこと】お堅いイメージがあるNHKだが、堂元さんの人柄は気さくな関西人そのもの。メディアは大変革の時代を迎えていると言う。とはいえ、読者にとって価値ある情報を届ける根本は、いつの世も変わらない。

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