新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、兵庫県が出していた休業要請が16日午前0時から部分的に解除された。観光地や飲食店などは歓迎したものの、政府の緊急事態宣言が解除されたわけではなく、楽観視する声は少なかった。一方、解除されなかった業界からは悲痛な声が相次いだ。
■有馬温泉
「すぐには難しいが、少しずつ前の有馬に戻れる」
有馬温泉観光協会(神戸市北区)の金井啓修会長は安堵(あんど)した表情。同温泉には年間約300万人が訪れるが、温泉街は連日、閑古鳥が鳴いていたという。
行楽を目的とした旅館などへの休業要請は7日に解除されたが、再開した旅館は一部のみ。公営の外湯「金の湯」「銀の湯」も5月末まで休業予定だが、今後、多くの旅館が再開に向けた準備を本格化させる。
金井会長は「引き続き、衛生管理に力を入れていく」と気を引き締めた。
■元町の飲食店
営業時間が2時間延長された飲食店業界では、喜びと不安が交錯した。
「延長は助かる」とは、神戸元町の居酒屋「猿人」店主藤木大さん(33)。少人数でも店を貸し切りにするなど、採算より感染対策に気を使ってきた。「厳しい状況は続くだろうけど、気を緩めず営業したい」と力を込めた。
近くで居酒屋「心や」を営む安井英樹さん(58)は「素直には喜べない」と複雑な表情。ここ1カ月で売り上げは9割減ったため、「お客さんはすぐには増えないだろう。もっと十分な補償を」と求めた。
■三宮センター街
一時は人波が消えていた三宮センター街。商店主らは複雑な思いを明かした。
眼鏡屋で働く男性(43)は「お客さんが戻るなら助かる」と期待する。外出自粛の期間中は客足が通常の半分以下に落ちたといい、「感染リスクは高くなるので、しっかり対策したい」とした。
雑貨店を営む大内日出男(ひでお)さん(52)は14日、商品数を絞って売り場面積を半分にして店を再開したが、通常営業には慎重な姿勢だ。「緊急事態宣言はまだ解除されていないので、どうすべきか」と戸惑った。
■映画館
解除と同時に感染防止対策を要請された劇場や映画館などは、手探りの日々がスタートした。
6月1日に再開予定だった元町映画館(神戸市中央区)は準備を始めたが、再開を大幅に早めるのは難しいという。支配人の林未来さん(45)は「上映する作品を決め、宣伝する期間が要る」と話す。再開しても座席の半数のみ利用するなど対策も必要で、「例年通りの売り上げは見込めない」とこぼした。
■休業継続
一方、解除されなかったスナックやライブハウスなどは苦境が続く。
神戸・三宮のスナック「Bijoux(ビジュー)」は、4月の売り上げが家賃の半分にも満たなかったという。5月の売り上げはゼロで、ママの北村多摩水さん(35)は「貯金を切り崩す日々。一日も早く店を開けたい」と嘆いた。
老舗のライブハウス「チキンジョージ」(神戸市中央区)では緊急事態宣言以降、ほぼ全ての公演が中止に。収入が途絶え、専務の児島勝さん(57)は家賃などのやりくりに頭を悩ます。ライブハウスへの自粛要請は6月中旬ごろまで続くとみており、「ミュージシャン、ファンのために音楽の灯を守りたい」とした。
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