新型コロナウイルスの感染予防で、人工知能(AI)を搭載した機器を学校に導入する動きが加速している。兵庫県三田市内の小学校では、子どもの検温をカメラ付き端末が代行し、廊下の掃除はロボットにお任せ。感染リスクを下げるとともに、授業の遅れを取り戻そうと奔走する教職員の負担を軽くする狙いもある。(門田晋一)
■顔認証で体温測定 ロボが廊下掃除
「おはようございます」
午前8時ごろ、三田市立志手原(しではら)小学校。登校した児童が上履きに履き替える昇降口の隣で、おっとりとした女性のあいさつが響く。
声を発しているのは縦13センチ、横23センチのタブレット端末だ。顔を近づけると名前が画面に表示され、サーモグラフィーで顔全体が赤く映る。「36・1度」。検温が無事に済むと、女性の声で再び声をかけられる。
「測定できたよ。マスクを着けてください」
端末は、子ども向け見守りサービスの国内大手「ミマモルメ」(大阪市)が今年6月に発売した検温機能付き顔認証デバイス「AI検温ミマモルメ」だ。志手原小は発売後、全国初の導入校になった。
端末は、児童がマスクを着けていても顔を認識し、1メートル離れた場所からでも0・5秒以内に体温を測る。熱が高いと「保健室でもう一度熱を測りましょう」と促してくれる。
三田市教育委員会によると、子どもの検温は原則、保護者が自宅で済ませて学校に報告するよう求めている。しかし実際、同校では児童が報告シートを出すのに手間取ったり、忘れてきた児童を検温するために行列ができたりして、授業準備が遅れがちになった。
こうした事情を知り、地域住民とPTAが端末を寄贈。児童が入室できるかどうかを自動で判定でき、体温記録を日々チェックすることで、スムーズに授業が進むようになった。
掃除風景も変わった。いつもなら子ども2人が雑巾がけをする1階廊下の約50メートルを、白いロボットが無人で走る。職員室や保健室から子どもが飛び出すと、動きを察知して急停止。行き過ぎるのを待って再び動きだした。
「ソフトバンクロボティクス」(東京都)のAI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」。6月の学校再開に合わせ、2カ月間の無償レンタルサービスで試験的に導入している。
同社は2019年5月にレンタルを始め、清掃員不足に悩むオフィスや病院を対象に実績を伸ばしてきた。一方で学校への案内は控えてきた。「学校の清掃には子どもが身の回りを整理整頓し、物への愛着心を育む意味がある。積極的に売り込みにくかった」と担当者。しかし、コロナ禍で状況は一変。学校からの問い合わせは急増しているという。
「掃除をする際に床に触れると感染リスクも高まる。掃除による教育は今でなくてもできる」と同校の植木俊也校長(57)。「感染予防は徹底しつつ、負担は極力減らす。教員や親が子どもと向き合う時間を確保するため、最新のテクノロジーを活用することには意味がある」と語った。
■教材、採点にもAI導入
文部科学省は2023年度までに全ての児童・生徒1人に1台のパソコンを使えるようにする「GIGAスクール構想」を進めている。新型コロナウイルスの緊急経済対策で配備を急ぎつつ、将来的には教材にも人工知能(AI)を導入したい考えだ。
兵庫県内では武庫川女子大付属中学校(西宮市)が2019年7月、AIを使った教材アプリ「Qubena(キュビナ)」を導入した。AIが問題を出題し、生徒が間違えると傾向を分析し、過去の単元に戻って復習できる。1~3年の約480人が数学の授業や宿題で使っている。
同校は「授業中にどの部分でつまずいたかを個別に把握するのは難しい。使い方次第で学習の遅れが解消できる」と手応えを語る。
神戸市は市立中学32校がテストの解答用紙をスキャナーで読み込み、採点するソフトを導入。現時点では選択解答の記号1文字を認識するだけだが、AIを使って長文の採点もできるよう検討している。同市教育委員会は「AIで採点時間を短縮できれば、教員が生徒の指導により時間を使える。教材での活用も考えていきたい」と期待する。