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作家山村美紗の素顔あらわに 評伝を花房観音さんが刊行

2020/08/22 11:40

 京都を舞台にした推理小説を200冊以上書き、その半分以上が映像化され「ミステリーの女王」の異名を取った作家、山村美紗(1931~96年)。派手な言動とは裏腹に、その素顔はあまり知られていない。花房観音さん(49)の評伝「京都に女王と呼ばれた作家がいた」は、丹念な取材を基に、等身大の姿をあぶり出す。(片岡達美)

 花房さんは兵庫県豊岡市出身。豊岡高校を経て京都女子大中退。バスガイドの傍ら執筆活動を続け、2010年「花祀(まつ)り」で第一回団鬼六賞を受賞した。

 「山村作品には興味がなかった」と花房さん。「それよりゴシップ雑誌に書かれる傲慢(ごうまん)な振る舞いや、同じミステリー作家で渡り廊下でつながる隣家に住む西村京太郎さんとの関係など、下世話なことが気になっていた」という。

 京都ものを書く京都在住の作家として共通点の多い花房さんだが、山村に関心を持ったきっかけは、彼女の夫、巍(たかし)さんの存在だ。「西村さんとの関係が前面に出ていたので、夫がいたことに驚いた」。巍さんは山村の死後、再婚するが、山村の絵を描いて個展を開催。一方の西村さんも山村を連想させる女性が登場し、2人の関係をにおわせる小説を出した。「男性2人をここまでひきつける魅力は何なのか」。同じ女性として真実を確かめたいという気持ちが湧いてきたという。

 山村は短大を卒業後、中学で国語を教え、同じく数学教諭だった巍さんとの結婚を機に退職。山村の父は京大教授、弟は政治学者の木村汎(ひろし)と高学歴で、自身も成績はよかったものの、短大だったことで「学歴コンプレックスを抱えていたようだ」と花房さん。小説を書き始めるが遅咲きで、74年「マラッカの海に消えた」でデビュー。自信作だったのに、江戸川乱歩賞を取れなかったことを後々まで悔しがったという。

 真っ赤なドレスや振り袖で現れ、長者番付上位に入るためにあえて節税せず、高額の税金を払い続けた。だがその内実は病弱な体を押し、一心不乱に書き続ける毎日。「まだ女性の社会的地位が低かった時代、古い価値観と闘った。作家として認められたいという並々ならぬ願望、野望といってもいい強い思いもあっただろう」と花房さん。西村さんとの関係も出版業界で「なめられない」ようにするための自衛策。エキセントリックな言動は「欲望に正直だったから」と推測する。

 花房さんは今、編集者から「京都を舞台に女の情念を書いて」と求められているが、「山村さんがすべて書いている」と苦笑する。

 「京都に女王と呼ばれた作家がいた」は西日本出版社刊、1650円。

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