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グループホーム「いなの家」で、職員と昼食の準備をする入居者(左)=尼崎市食満(撮影・秋山亮太)
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グループホーム「いなの家」で、職員と昼食の準備をする入居者(左)=尼崎市食満(撮影・秋山亮太)

 兵庫県内の高齢者向けの施設や住まいで、職員が利用者を虐待する事件が相次いでいる。目的に応じて特別養護老人ホーム(特養)やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などがあり、明石市のサ高住では9月、重度認知症がある入居男性(89)が暴力を振るわれたとされる。利用者とサービスの間にミスマッチはなかったのか-。認知症高齢者を受け入れる施設責任者は「細やかな気配りとスタッフの連携が必要」と指摘する。(金 旻革)

 「家に生えていた花が咲いているのよ」

 尼崎市食満(けま)にある「いなの家」は認知症を受け入れるグループホーム。広々とした和風の2階建て施設で、66~102歳の計18人が共同生活を営む。

 昨年春に入居した女性(85)はガラス戸越しに映るアメリカンリリーの花に目を細め、「ここは家よりええねぇ。部屋を出たら友達がいるし」と声を弾ませた。耳を傾けていた女性職員(37)は「花の話は初めて聞いた」と口にし「入居者の人生を知ることは大切。皆さん不安を抱えているので」と話す。

 認知症そのものへの不安、自分が施設にいるという不安、生活の見通しが立たない不安…。言葉で言い表せない思いは時に、そばにいる職員への暴言や暴力として表れるという。

 責任者の堀口明子さん(41)は「理不尽な行為に職員の側が腹を立てる場合があるが、怒るのはその人なりの理由がある。察知する努力が常に必要」と説く。介護は1日当たり8人の職員が担う。体調や表情の変化に目を配り、情報を共有する。「職員数が少ないと丁寧な対応は難しい。入居者の表面的な行動だけを捉(とら)まえては、虐待につながる恐れがある」と語った。

     ◇

 明石市のサ高住で虐待を受けたとされる男性の介護度は、食事や排せつなどの日常生活全般で支援が必要になる要介護4だった。

 「サ高住の本来の役割は安否確認と生活相談。介護や生活支援などのサービス内容は住宅によって異なる」とするのは、兵庫大生涯福祉学部の小倉毅教授(48)。職員配置数など法律上の義務は緩く「入居者が期待する生活支援とミスマッチが起きやすい」と話す。

 サ高住に要介護度が高い高齢者が入居する背景の一つに、介護が手厚い特養への入りにくさがある。要介護3~5で、特養に申し込みながら入所できない待機者は2019年4月時点で全国に約29万人、兵庫県で約1万4千人に達する。

 姫路市でサ高住を運営する60代男性は「要介護度が高い人を受け入れるサ高住は珍しくない」と明かす。入居者約20人で半数は要介護1か2だが、かつて寝たきりの要介護5の入居者もいた。訪問介護に手慣れた職員を配してサービスの質の維持に努めるが「人材の採用と育成は簡単ではない。多くのサ高住にとって頭が痛いはず」と指摘する。

 小倉教授は「空き室を出さないために要介護度が高い高齢者を受け入れるサ高住も一部ある。運営側が収入目的で利用者を抱え込むモラルハザード(倫理観の欠如)に陥れば、現場の職員に過度な負担を強いることになる」と警鐘を鳴らす。

 

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