新型コロナウイルスの感染拡大で兵庫県内全域の飲食店に要請された営業時間短縮が、神戸、尼崎、西宮、芦屋の4市以外で解除され、17日で10日。場所によっては時短が続く地域と解除された地域の境界が道路1本で隔てられ、歩いて数分で深夜営業に差が出る。要請期限の21日以降も延長される可能性が浮上する中、夜の店の実情はどうなっているのか。時短の境界線を歩いた。(大田将之、川崎恵莉子)
午後9時までの時短営業が続く西宮市と、要請が解除された宝塚市。市境には川や道路があるだけで、周囲には同じような住宅や商店が連なる。
西宮側のうどん店主の男性(53)は時短要請に応じ、午後10時の閉店を1時間早めている。コロナ禍前は酒類が売り上げの半分ほどを占め、常連客が盛り上がれば営業を延長した。
一方、店から歩いて3分の宝塚市側にある駅前では、深夜まで赤ちょうちんが消えない。「常連客があっちに流れたらどうしよう」「もし時短要請が延長されたら」。不安がよぎるたび「目先の売り上げに固執し、地域の信頼を損なっては意味がない。もう少しの我慢」と自分に言い聞かす。
とはいえ、深夜営業できる地域も事情は厳しい。
「お客さんは、伊丹が時短解除されたこと知らんのちゃうかな」
尼崎市との境界に近い伊丹市の雑居ビルでショットバーを営む女性(75)はこぼした。午前0時まで営業し、周辺のネオンも遅くまでともるが、客足が戻る気配は全くない。
3月7日までは時短要請に協力すれば1日当たり4万円が支給されたが、要請の解除後はなくなった。「正直、今の方がしんどい。このままでは町が死んでしまう」と悲鳴を上げる。
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西の境界、神戸・明石間も事情は同じだ。
神戸市垂水区本多聞2の焼き肉店「たもん春秋」も営業を3時間短縮して午後9時で閉店する。150席ある店内は閑散とした日が続き、店主の山口幸男さん(60)は「早く解除してほしいけど、営業時間を延ばしたところでお客さんは戻らないと思う」と複雑な思いを口にする。
コロナで客は半減し、宴会などの予約は昨年3月からゼロ。「店の規模が大きく協力金ではカバーできない。この先続けられるかどうか」と不安を募らせる。
一方、「明石の台所」魚の棚商店街(明石市本町1)で午前0時までの営業を再開したイタリアンバル「OTTO(オット)」のオーナー篠原昭彦さん(47)は「初めて見るお客さんがちらほらいる。神戸などから来ているのかな」と推測する。
それでも月40~50件あった予約は数件まで落ち込み、苦境に変わりはない。店は一度も休業せずテークアウトなどで乗り切っており、「時代に合った方法を考えていかないと店はもたない。今がターニングポイント」と前を向いた。