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「5万回斬られた男」たった一つの主演作品 俳優・福本清三さんをしのぶ

2021/03/31 13:40

 時代劇の斬られ役60年。「5万回斬られた男」の異名をとった。一太刀浴びると、よろけながらカメラの前へ。背を向けてえび反ると顔が逆さまに、主役と同じフレームの中に見える仕掛けだ。

 兵庫県香美町出身。6人兄弟の5番目で、円山応挙の障壁画がある大乗寺境内を駆け回った。中学卒業後、京都の米屋で働いたがなじめず、東映京都撮影所の大部屋俳優になった。通行人や死体役から始め、20歳の頃、斬られ役に。殺陣技術集団「東映剣会」で斬られ方を研究した。

 えび反りは歌舞伎にもあるが、それではなく映画で喜劇王チャップリンが背中から真後ろに倒れるのを見て取り入れたそう。「ホンマはね、腹を斬られると前かがみに丸まる。えび反りはありえない。でもね…」とこっそり教えてくれた。本当に5万回? と尋ねたことがある。「そうやな、1作品で5回斬られるとして…うん、多いわ」。つまり4回目までは顔があまり見えないように、別人として現れ斬られるという訳だが、計算は適当のようだ。

 唯一の主演作、2014年の「太秦ライムライト」では新人女優に殺陣を教える老俳優を寡黙に演じた。「わしが主役て、アホなこと言いなさんなと、500回ほどアホと言われたが、最後は引き受けていただいた」と製作と脚本の大野裕之さんは振り返る。

 同作では長年、斬る方だった松方弘樹さんが脇役。「気を使って眠れまへんでした」と照れた。「気軽にパチンコに行けへん」と愚痴ったが、少し誇らしそうにも見えた。

 松方さん、川谷拓三さんら共演者の多くが故人だ。「今頃は皆さんとにぎやかにやっているのでは」と妻の雅子さん。空の上で、また照れくさそうに思い出話をしていることだろう。(片岡達美)

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