街からホームレスが姿を消している。各自治体の目視調査によると、県内には2003年に947人いたが、21年は100人にまで減った。全国も同様だ。03年は2万5296人だったが、21年は3824人となった。
一方で周囲に目を凝らせば、ホームレスを追い出すための巧妙な仕掛けが増えている。ベンチの真ん中には仕切りが設けられ、雨をしのげそうな軒下には突起のあるオブジェが敷き詰められている。人が寝転べない造形をしており、「排除アート」と呼ばれている。
東北大学大学院の五十嵐太郎教授=建築史=によると、こうした造形物が置かれ始めたのは1990年代後半ごろ。東京・新宿駅西口の地下道では96年にホームレスを強制排除した後、オブジェが置かれた。
五十嵐教授は2004年の著書「過防備都市」で、当時から既に排除のためのベンチやオブジェが増えていることを指摘。編集者の都築響一氏が「ホームレス排除アート」「ギザギザハートの現代美術」と名付けたことも紹介した。
五十嵐教授は「他者への不寛容とセキュリティー意識の増大に伴い、2000年代はじめに街に監視カメラが急増した。それらと並行して排除アートは増えた」とみる。
背景には人々の「不安」があるという。95年、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生。01年6月には、大阪教育大付属池田小学校で校内児童殺傷事件が起きた。同年9月11日には米同時多発テロがあり、04年、イラクで日本人人質事件が起きると「自己責任論」が巻き起こった。
五十嵐教授は「人々の不寛容さは、どんどん広がっている」と話す。排除アートは無言で普及し、増え続けている。当初ベンチの仕切りは後付けのケースも多かったが、現在は標準的になった。自己責任論も合わさり、ホームレスが「排除していい存在」にされていく。
だが「ホームレスを排除した都市は、誰に対しても優しくない」という。寝転べないようにした円筒形のベンチは、単純に座りにくい。ベンチすら設置しなくなれば、高齢者や具合が悪くなった人、妊婦らが休む場所もなくなる。
公園で遊ぶ子どもの声を「騒音」と感じる人がおり、保育所ですら「迷惑施設」とされる時代だ。五十嵐教授が示唆する。「公園に遊具と見せかけて実は遊べないオブジェが現れたら、シュールですよね。極端な話だけど、現実に起きかねない」