駅で待ち合わせする生徒、農作業をしたり洗濯物を干したりする女性、アイスストッカーを眺める子どもたち-。50年前の国鉄篠山線福住駅周辺(兵庫県丹波篠山市)を再現したジオラマが完成した。コロナ禍による中断を挟みながら、地元住民5人が約3年半をかけて作った。駅舎や神社、家屋などのミニチュア模型と、1センチに満たない人形たちが、往時の暮らしを映し出す。篠山線は来年3月で廃線から50年。(谷口夏乃)
ジオラマは、旧「福住小学校跡地活用運営委員会」委員長の森田忠さん(69)が発案。宿場町の面影が残っていた福住地区の歴史や文化を知ってもらおうと、制作を呼び掛けた。模型作りが趣味で、同委員会メンバーだった森田祥央(よしお)さん(42)や西脇丈洋さん(48)ら5人が快諾した。
作り始めたのは2018年夏。閉校した同校や、同校を改修した交流施設「SHUKUBA(しゅくば)」に毎月、仕事の合間を縫って集まった。再現するに当たり、当時の写真や地図を調べ、地区に残る民家を視察したこともある。西脇さんは「ゼロから忠実に作り上げるのは、大変だった」と振り返る。
材料は手近にあるものを有効活用した。家は段ボールの切れ端。線路や駅前の砂利は旧福住小のグラウンドの砂をこして使った。土はコーヒー豆の殻、木の幹は銅線で。
かやぶき屋根には森田祥央さんはコットン、西脇さんはフェルトを利用した。森田祥央さんは「作品のトーンを合わせるのが難しかったが、同じ家は存在しない。かえって味のある仕上がりになった」と、顔をほころばせる。
新型コロナウイルスの感染拡大で中断を余儀なくされつつも、3年半かけて作り上げたジオラマは縦115センチ、横90センチ。上下左右から楽しんでもらうため、ジオラマの撮影スポットのほか、観賞する際のクイズも考えた。「目線を下げて細かいところまでじっくり見て、当時の福住の暮らしを理解してもらえるとうれしい」と西脇さん。
ジオラマは「SHUKUBA」の展示室に常設するが、公開展示は未定。森田祥央さんは「今後、地域のイベントなどで子どもたちや住民の方々に見てもらえたら」と話している。問い合わせは、「SHUKUBA」理事長の佐々木幹夫さんTEL0795・50・9082
【国鉄篠山線】1944年、けい石やマンガンなどを運ぶ軍事路線として開業した。走行距離は篠山口-福住間17.6キロ。戦後は沿線人口や旅客数が減少し、72年3月1日に廃線となった。開業当初は山陰本線園部駅(京都府南丹市)まで延伸する計画もあったが終戦を迎え、実現しなかった。