特急が来たのに乗り換えられない－。ＪＲ福知山線と加古川線が接続する谷川駅（兵庫県丹波市山南町池谷）で、こんな光景を目の当たりにした。加古川線の電車が着くと数分後に上りと下りの福知山線特急が来るのに、かたやドアは開かず、かたや通過する。いったいなぜ？（藤井洋一）

■乗せての声も、ＪＲ西「実態で判断」

　１０月１日、谷川駅。西脇市からの加古川線普通電車が午後２時過ぎにやってきた。１０人ほどの乗客がホームに降り立つと、間もなく新大阪行き特急が隣に到着する。ドアは閉まったままで、「行き違いのための停車です。ご乗車できません」とのアナウンスが流れる。やがて反対側のホームを福知山行きの特急が通過し、停車していた特急も発車。ホームと待合室には、次の福知山線各駅停車に乗り換える数人が残された。

　　　　　◆

　福知山線は篠山口駅より北が単線になり、上りと下りの電車が駅で行き違う。各駅停車なら双方が止まるが、特急は相手の電車を待たせて通過する。

　今回取り上げた上りと下りはいずれも特急だったので片方が止まっていた。しかし乗り降りはできず、駅の時刻表にも停車は表示されない。両方とも止めて乗客を乗せればよさそうなものだが、ＪＲ西日本によると「特急の（乗客が乗り降りする）停車駅は利用実態で総合的に判断して決める」という。

　谷川駅では、通勤通学客への対応などで停車する特急もある。しかし今回のケースは加古川線が接続していても「利用実態から特急を止めていない」という。

■１時間近く早く到着

　特急なら料金はかかるが、新大阪にも福知山にも１時間近く早く着く。加古川線で西脇から福知山に帰省するという男子高校生は、通過する福知山行きの特急を見て「乗せてくれるなら利用したい」と話す。

　ドアを閉めたままだった新大阪行き特急は、新型コロナウイルス禍による乗客減少に対応し土曜や休日が中心の運行となっている。コロナ禍が収束し毎日の運行に戻ったあかつきには、谷川駅で乗り換えできれば、新幹線を利用するビジネス客も取り込めそうだが…。

　　　　　◆

　加古川線西脇市－谷川間は赤字が続き、ＪＲ西日本は地元に対し、存廃を含め今後のあり方を検討するよう求めている。

　この区間の電車は平日で１日９往復。昼間は最大で３時間も間隔が空く。復刻発売された１９８２年１１月号の時刻表を見ると、１日１４本走っていた。

　利用が減ると本数が減り、ますます利用が減る。加古川線のみならず全国の地方路線が陥る悪循環だ。

　仮に今回取り上げた加古川線と特急の乗り換えが可能になっても、乗客増は微々たるものかもしれないが、悪循環を断ち切る一歩になりはしないか。

■存廃が課題の加古川線　路線の乗り継ぎ、利用者目線で

　丹波市内の二つのＪＲ路線はいずれも重要な地域課題を抱える。福知山線は複線化、加古川線はいかに存続させるか、だ。

　利用増が課題解決につながる点は共通する。しかし地域全体の人口が減少し続ける中、一つの路線だけで対策を練っても限界がある。両路線を乗り継ぐ利用にも目を向けたい。

　たとえば加古川線沿線にはパルプや播州織、釣り針などの地場企業が数多い。商用で大阪や東京と往来する人たちが、空路や高速道路だけでなく電車も使うようになれば、福知山線の乗客も増える。

　加古川線は南海トラフ地震などで県南部の交通網が寸断された際、福知山線とともにバイパスとなる使命を持つ。平時から両路線の行き来を活発にさせ、輸送力を徐々に強化すれば、有事への備えにもなる。