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どこへでも行ける
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どこへでも行ける

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 家族と再び暮らせる環境になった。そのことを知り、少女は揺れた。

 児童養護施設の尼崎学園(神戸市北区)。家にいたころは小学校に通えず、一人だった。尼学に来て、友達ができた。学ぶ楽しさも知った。家に帰れば、昔に戻るかもしれない。

 これまで、親とは会っていなかった。少女と暮らせるようになった親は、会いたがっているという。会いたい。やっぱり会いたくない-。思いが交錯する。

 普段は元気にしていても、気づいたら涙がこぼれていた。来る日も来る日も泣き、長いときは2~3時間に及んだ。

 少女は少しずつ、家での出来事を話し始めた。実は暴力を振るわれていた。誰にも言えず、1人で抱えていた。

 「過去を打ち明けたのは、彼女が振り絞ったSOSでした」。副園長の鈴木まやが言う。職員と信頼関係ができたことで、一つ一つ、苦しみをはき出せた。時間を掛けてようやく、振り返られるようになった。

 「家族との生活は考えられない」。少女は、はっきりと言った。いつかは帰りたいけど、今じゃない。

 「なぜ自分は学園に来て、暮らしているのか。子どもと一緒に考え、理解してもらうことも、私たちの大切な仕事なんです」と鈴木。家族の状況を知り、自分が感じた痛みや悲しみが何かを考える。現実を受け入れることが、これからの人生を自分で決めるための第一歩になる。

 職員はそうなるまで、粘り強く子どもたちと向き合う。ここは安全な場所。ここにいる大人には、安心して助けを求めていいんだよ、と。

 子どもたちは、望んで尼学に来たわけじゃない。でも、未来は自分で選ぶことができる。日々の暮らしの中で少しずつ、その力を育んでほしい。

 (敬称略、肩書は当時)

 記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当します。

2019/5/5
 

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