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特別な日。それ、ちょうだい
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特別な日。それ、ちょうだい

特別な日。それ、ちょうだい

特別な日。それ、ちょうだい

 中学3年の太一が、珍しくイライラしていた。夕食後、ユニットのリビングで小学3年の大雅に声を荒らげた。「お前も中3になったら大変やねんぞ。絶対見に来るからな」。大雅も言い返す。「そのとき僕、ここにおるか分からんもん。でも、やっぱりおるんかな…」

 昨年8月8日、児童養護施設「尼崎市尼崎学園(尼学)」(神戸市北区)。受験を控えた太一は職員の大庭英樹に、関西学院大の学生が学習ボランティアに来ることを告げられた。まずは週2日で、1回2時間。慣れてきたら週4日に増やすという。すでに週2日塾に通っているのに、だ。

 「週6なんか絶対無理やって」「追い詰められて自殺するわー」…。ひとしきり文句を言った後、ふてくされて「もう寝る」と自分の部屋に入った。

 太一は小学校に行っておらず、中学1年で尼学に戻った。直後のテストは5教科合計が10点に満たず、足し算の筆算すらできなかった。大庭は「授業が理解できず、ただ座っているだけ。つらかったはず」と振り返る。

 小学校の基礎から学び直すため、塾に通った。教室は小学生から高校生までが学ぶ。低学年の児童に「まだそんな所やってるん」とからかわれた。算数の宿題が分からず、小学生の大雅に教えてもらうこともあった。

 「みんなよりスタートが遅いから挽回せなあかんと思ったけど、すごいしんどかった。宿題と同じで、ため込むとしんどい。毎日積み重ねてきてたら、もっと楽なペースで覚えられたのになって」。小学校に通っていない現実が身にしみた。

 塾には休まず通った。小学生と競いながら、着実に学力を付けた。「元々は頭のいい子。最初はわくわくするくらいに伸びた」と大庭。それは、失った時間の大きさでもあった。

(敬称略、子どもは仮名)

 記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当します。

2019/5/9
 

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