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明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志) 柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)
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明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志)

柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)

  • 明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志)
  • 柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)

明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志) 柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)

明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志)

柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)

  • 明石市の空襲の様子など、戦時の体験を語る炭谷光世さん=明石市大蔵中町(撮影・斎藤雅志)
  • 柳原天神社の境内にある慰霊碑。宮司が供花などを続けている=神戸市兵庫区東柳原町(撮影・吉田敦史)

 神戸市兵庫区の柳原天神社の境内に入る。緑陰に隠れるように、人をかたどるレリーフの埋まった慰霊碑がたたずんでいる。高さ1・8メートルの碑には、5人の女性の名前が刻まれていた。(末永陽子)

 5人は戦時中、同神社の近くにあった神戸中央電話局兵庫分局に勤務していたが、1945(昭和20)年3月17日、宿直中に神戸空襲に遭い命を落とした。

 参拝者のうち、この碑を目的とする人はほとんどいない。「20年以上前は遺族や元同僚、NTT職員がよく来ていたらしいですが…」。宮司の大石博文さん(65)が寂しそうに話す。

 神戸市中央区の小野八幡神社にも、女性7人の名前が彫られた小さな慰霊碑がある。こちらは同区にあった同電話局葺合分局で宿直中、神戸空襲の犠牲になった職員1人と交換手6人。

 NTT西日本神戸支店100年誌には、彼女たちについて「十二名殉職」とだけ記されている。

 亡くなった交換手は10~20代といわれる。遺体は焼け焦げ、身元は座っていた場所や着ていたもんぺの切れ端で判別された。最年少は16歳の少女だった。

     ◆

 太平洋戦争中、「通信戦士」と称され、命懸けで電話回線を守り続けた女性たちがいた。

 当時、女性の花形職業とされた「電話交換手」。回線同士を接続する交換機が機械化されるまで、交換手が手作業で、かけた人と相手をつないでいた。

 採用条件は厳しく、良家の子女から厳選された。数カ月の訓練を経て、試験に通った人だけがなれる狭き門だったという。

 終戦ごろまで兵庫県明石市の電話局で交換手をしていた、炭谷光世さん(93)=同市=が振り返る。「戦局が悪化する前は、みんな白の着物と黒のはかまを着て通勤した。毎日はかま姿で局に向かうのが誇らしくてね」

 女性ばかりの職場で、休憩中は洋裁や恋愛についておしゃべりした。だが、そんな彼女たちも戦渦に巻き込まれていく。

 戦時下の電話通信は、国防用や緊急用として重要だった。その命脈を保つのが交換手。「死んでもブレスト(送受器)を離すな」と厳命された。「軍からの連絡です」「流れ弾が着弾し被害が出ているそうです」-。空襲下でも逃げずに回線をつなぎ続けた。

 NTT西日本などによると、空襲などで殉職した交換手は全国各地にいるが、正確な人数は明らかになっていない。

 記者(41)が戦時下の交換手を知ったのは、旅先の北海道でふと見つけた本からだった。そこに、17~24歳の女性9人が集団自決した「真岡(まおか)郵便電信局事件」のことが書かれていた。

 終戦直後の45年8月20日、日本領だった樺太(現サハリン)にソ連軍が侵攻。樺太南部の真岡郵便局では、弾丸が飛ぶ中で交換手たちが作業を続けた後、自ら命を絶った。事件は「北のひめゆり」とも呼ばれ、ドラマや映画にもなっている。

 その後、取材で訪れた小野八幡神社で慰霊碑を見て、神戸の交換手の悲劇を知った。だが、真岡と比べて認知度はないに等しい。

     ◆

 「数年前に亡くなりました」「話せる状態ではなくて」「去年だったら」…。 記録が乏しい中で取材を進めると、関係者の高齢化も障壁となった。新型コロナウイルスで入院した元交換手の女性もいた。

 戦後75年の夏が終わる。記憶が薄れゆく今こそ、彼女たちが残す声に耳を澄ませたい。

2020/8/24
 

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