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新成人へ「命を大事に生きて」 神戸・灘区の夫婦

2014/01/14 09:08

 晴れ着姿の若者が街にあふれた13日を、複雑な思いで過ごした家族がいる。「なんであの子が死ななあかんかったんやろ」と父はつぶやき、「悔しさや悲しみは今も消えない」と母は涙を拭った。19年前、阪神・淡路大震災で命を絶たれた幼い娘。生きていれば、今年が成人式だった。(黒川裕生)

 あの日、1歳2カ月だった長女瞳ちゃんを失った神戸市灘区の会社員竹場満さん(48)と妻典子さん(48)。8日前に長男遼太郎さん(19)が生まれたばかりで、典子さんは同じ灘区内の実家に2人を連れて帰っていた。

 激しい揺れで瞳ちゃんと典子さんの母=当時(63)=が寝ていた1階は押しつぶされ、2人は帰らぬ人となった。祖母に守られるように抱かれた瞳ちゃんの顔には、傷ひとつなかった。

 よちよち歩きを始めた瞳ちゃんはよく笑う子だった。満さんの両親が近くで営んでいた銭湯でも、常連客にかわいがられた。「かわいかったなあ…。ほんまにかわいかった」。満さんは目を細める。

 典子さんはしばらく、瞳ちゃんと同じ年頃の子を見ることができなかった。遼太郎さんを連れて行った公園で、1歳くらいの子どもがいたので逃げ帰ったこともある。遼太郎さんが瞳ちゃんの年齢になるまでは、片時も目を離さなかった。失うのが怖かった。

 震災後、1男2女に恵まれた。4人の子どもとの暮らしはにぎやかだ。「寂しくならないように、授けてもらえたのかな」。典子さんは今、そんなふうに感じている。

 それでも、傷が癒えたわけではない。着飾った新成人の姿を見ると、典子さんにはどうしようもない悔しさが募る。「瞳はできないのに」と胸が張り裂けそうになる。ただ、来年遼太郎さんが成人式を迎えれば、少しは心境が変わるかもしれない、とも思う。

 「亡くなった子の同級生が成人式の報告に訪ねて来てくれる新聞記事なんかを読むと、そういう友人のいない瞳がかわいそうでね」と満さん。瞳ちゃんと同級生の新成人たちに「息子や娘たちにもいつも言ってるけど、命を大事に、しっかり生きてほしい」と思いを託した。

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