社説

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 乗客106人と運転士が死亡し、493人(神戸地検調べ)が重軽傷を負った尼崎JR脱線事故から、きょうで15年になる。

 事故現場に整備した追悼施設「祈りの杜(もり)」などで行う予定だった追悼慰霊式は、新型コロナウイルスの感染拡大で中止される。遺族や負傷者らの胸中は複雑に違いない。

 式典は開けなくとも、JR西日本は、企業全体であらためて安全への誓いを立て、癒えることのない遺族らの心に寄り添わねばならない。

 同社では今春、事故後に入社した社員が半数を超えた。安全に向けた日々の取り組みに加え、事故の記憶と教訓の継承が課題となる。

 2018年に完成した祈りの杜では、昨年初めて慰霊式が行われた。鎮魂の場であり、事故を風化させない場であるとの位置づけだが、この施設の在り方を巡っては遺族からさまざまな意見があった。

 風化を防ぐには、事故車両の保存方法も重要になる。JR西は大阪府吹田市にある社員研修施設「鉄道安全考動館」で保存する考えを示している。これに対しても、遺族からは祈りの杜での保存や一般公開を求める声が出ている。

 傷ついた車両は事故の悲惨さを伝える貴重なものである。一方で「興味本位で見てほしくない」と思う人もいる。結論を急ぐことなく、関係者の意向を丁寧に聞き取ってもらいたい。

 現在、同社は「鉄道安全考動計画2022」を進める。新幹線が破断寸前の台車で運行を続けた問題なども踏まえ、18年に策定された。一人一人がいったん立ち止まって「リスクを具体的に考える」とし、「何よりも安全を優先する判断や行動につなげます」と記されている。

 その姿勢は理解できるが、新幹線の問題発生後、再び失われた信頼が取り戻せたとは言いがたい。「安全最優先の企業風土」が十分に構築されるまで、社会が厳しく注視していることを忘れてはならない。

 懸念されるのは新型ウイルスの影響だ。山陽新幹線の利用が前年比で8割減り、長谷川一明社長が「会社発足以来最大の危機」と述べた。JR西は脱線事故の後、毎年1千億円前後の安全投資をしてきた。厳しい経営環境の中でも、命を守る対策に怠りがあっては困る。

 同社の鉄道事故件数は減少傾向にある。しかし、18年度の第三者評価報告書が指摘するように、安全への取り組みは「よくなった」と思った瞬間に劣化が始まる。

 事故時を経験した社員も、そうでない社員も、再発防止を望む遺族の思いを重く受け止めて、事故を風化させない責任を自覚してほしい。

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