社説

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 昨年7月の参院選を巡り、河井克行前法相=広島3区=と妻の案里参院議員=広島選挙区=が公選法違反(買収)容疑で検察当局に逮捕された。現職国会議員夫妻がそろって逮捕される前代未聞の事態だ。しかも夫は元法務行政のトップである。

 安倍晋三首相の任命責任は極めて重い。この選挙で案里容疑者を公認し、破格の資金を提供していた自民党本部にも当然、説明責任がある。長期政権にはびこる慢心が招いた事件と受け止めるべきだ。

 旧態依然の「政治とカネ」問題がコロナ禍で苦しむ国民に与える衝撃は大きい。検察当局は政権に忖度(そんたく)することなく、全容を解明する捜査に全力を挙げねばならない。

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 買収は自由で公正な選挙をカネの力でゆがめる悪質な行為である。

 夫妻は、参院選で案里容疑者の当選を実現するため、地元県議ら約100人に総額約2570万円を渡した疑いで逮捕された。2人はこれまでの任意聴取で買収行為を否定しているが、渡された側の大半は事情聴取に受け取りを認めているという。

 発端となった案里容疑者陣営の公選法違反事件では、公設秘書が法定上限を超える報酬を車上運動員に支払ったとして有罪判決を受けた。連座制の適用対象となり、案里容疑者は失職の可能性が高い。それどころか、夫妻が自ら現金を配っていたのなら言い逃れはできない。

 夫妻は昨年秋の疑惑発覚以降、「捜査中」を理由に事実関係に口を閉ざしてきた。せめて捜査に対して真実を語る誠実さを示してほしい。

 ただ、2人は自民党を離党しただけで議員辞職はしないという。昨年の臨時国会を欠席し、今国会は本会議に姿を見せたものの、選良にふさわしい仕事をしていた様子はない。それでも議員にとどまる限り歳費は支払われ続ける。

 コロナ禍で仕事を失い、資金繰りに苦しむ人々がいる中、国民の理解は到底得られない。疑いを晴らす説明もなく、満足な議員活動もできない以上直ちに辞職すべきだ。

党資金の流れ解明を

 国民の視線は厳しい。にもかかわらず、あからさまな「金権選挙」がまかり通ったのはなぜか。

 広島選挙区で自民党は2議席独占を狙い、党県連の反対を押し切って県議だった案里容疑者を擁立した。案里容疑者が初当選する一方、競合した自民党現職は落選した。

 二階俊博幹事長は、党本部が案里容疑者の陣営に送金した1億5千万円について「党内の基準と手続きを踏んで支給した」と主張する。だが落選した現職陣営の10倍となった理由の説明にはなっていない。異例の高額が安易な現金ばらまきの土壌となった可能性は否めない。

 共産党を除く政党には議席数などに応じて国から交付金が支給されており、税金が買収の原資となったとすれば重大な問題だ。党として陣営に渡った資金の使い道を調査し、国民に公表する必要がある。

 克行容疑者が法相に就任したのはこの選挙の直後である。法秩序を守る立場に不適格だったのは明らかだ。首相はきのうの会見でも「任命責任を痛感している」と述べた。

首相自身への疑惑も

 閣僚らの不祥事が発覚するたびに繰り返された言葉だが、首相が具体的な行動で責任の取り方を示したことはない。こうした首相の姿勢が、政権内に政治倫理に対する甘い認識を生んでいるのではないか。

 野党から国会召集の要求があれば速やかに応じ、自らの責任問題を明らかにしなければならない。

 検察当局の捜査姿勢にも国民は注目している。

 森友学園事件では公文書改ざんを指示した元理財局長ら財務省幹部全員を不起訴とした。東京高検検事長の定年延長問題ではトップ人事への官邸の介入を許した。捜査機関としての政治的中立と公正性が揺らぐ事例が続いている。

 厳正な捜査に徹し、国民の疑問に答えて真相を明らかにする。これが信頼回復への唯一の道である。

 政権中枢に向けられた疑惑はほかにもある。首相主催の「桜を見る会」前夜の夕食会を巡り、全国の弁護士らが首相と後援会幹部を公選法違反などの疑いで東京地検に告発した。森友問題では自殺した近畿財務局職員の妻が国と元理財局長に対する損害賠償訴訟を起こした。

 安倍首相は「国会議員は掛けられた疑惑について説明責任を負っている」と繰り返し述べている。自らの疑惑についても、国民が納得できるような説明を尽くすべきだ。

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