社説

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 裁判所は、国の非人道的な政策がもたらした被害の深刻さをどこまで理解したのか。「法の正義」をまっとうする役割にもとらないか。

 旧優生保護法下で不妊手術を強制された70代の男性が国に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は訴えを退ける判決を言い渡した。国による違法行為は認めたが、賠償の請求権が消滅する20年の「除斥期間」を過ぎているという理由だ。

 この問題では、24人が全国8地裁で賠償訴訟を起こし、兵庫県内でも5人が神戸地裁に提訴している。今回は昨年5月の仙台地裁に続く2例目の判決で、またも除斥期間が壁となり請求が棄却された。

 個々の実情を考慮せず法を適用した「冷たい判決」というしかない。他の裁判所は流れに乗らず、被害者の訴えによく耳を傾けてほしい。

 旧法は知的障害や精神疾患、遺伝性疾患を理由とする不妊手術を認めていた。1996年の法改正で廃止されるまで、約50年にわたり約2万5千人に行われた。うち約1万6500人が強制だったとみられる。

 当時は「公益上必要」と認められれば、親などの同意や医師の判断に基づき手術ができた。遺伝性ではない障害にも実施されたとされる。

 旧厚生省が「麻酔薬や欺罔(ぎもう)」を用いた手術を認めるなど、人権を無視した施策が全国で展開された。原告男性は対象の疾患ではないのに説明もなく手術をされた。極めて悪質な被害の実例といえる。

 東京地裁判決も「正当化の余地のない違法行為」と断じ、国の賠償責任が生じたと認めた。子を持つかどうかの意思決定ができなくなり、憲法13条で保護される私生活上の自由を侵害されたとも指摘した。

 ただ、提訴は2018年だが、判決はその60年以上前の手術にさかのぼり「除斥期間」を過ぎたと判断した。差別が根強い状況などを加味しても「遅くとも法改正時の96年には提訴が困難でなかった」とした。

 2年早く提訴していれば救えたとも解釈できる理屈である。ならば男性が長年妻にも打ち明けられずに苦しんだ経緯を考慮し、柔軟に時間の幅を広げるべきではなかったか。

 昨年、議員立法で被害者に一時金を支給する救済法が制定された。だが記録が残っていない人の認定はまだ500人余にとどまる。

 そうした中、手術をした側の医学系学会団体が「深い反省と心からのおわび」を盛り込んだ報告書を公表した。国会も問題の経緯や被害の実情などの調査を始めた。

 こうした反省と謝罪を実のあるものとするためにも、司法は幅広く被害を認定し、一人一人の尊厳の回復に力を尽くしてもらいたい。

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