京都市に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に依頼され、致死量の薬剤を投与して殺害した嘱託殺人の疑いで、宮城と東京の医師2人が警察に逮捕、送検された。
日本では積極的に死期を早める「安楽死」は法的に認められていない。医療現場ではこれまでも、回復の見込みのない病気や末期の患者の安楽死を巡り、担当医師が刑事責任を問われるケースが度々起きている。
だが、今回の事件は特異性が際立つ。2人は主治医ではなく、女性とは事件当日初めて会ったという。会員制交流サイト(SNS)を介して女性の依頼を受け、約130万円を受け取っていたとされる。
そこには、患者と家族、医師や介護職らを交えて対話を続ける、医療のあるべき姿は見当たらない。過去の事例と同列に論じるべきではない。
事件は昨年11月下旬に起きた。女性は男2人を自宅に招き入れた後、容体が急変した。防犯カメラの映像などから2容疑者が特定され、わずか5~10分後には部屋を出たとみられる。
女性はブログに「こんな姿で生きたくない」とつづっていた。一方で前向きな言葉もSNSに投稿し、生と死の間で揺れる心の一端がうかがえる。
生きるという選択肢は本当になかったのか、捜査当局は女性と容疑者とのやりとりも分析し真相を解明せねばならない。
容疑者の1人のものとみられるブログやツイッターには、高齢者の医療を社会の無駄とし、安楽死を積極的に肯定するかのような投稿が残されていた。
患者とともに生きる方法を考え、支えるのが医師の本分である。その努力をせず、患者を死に導いたのであれば、医の倫理に反する非道な行為と言うしかない。
懸念されるのが、難病患者の死を安易に容認する考え方が広がることだ。ALS患者であるれいわ新選組の舩後(ふなご)靖彦参院議員は「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切だ」とのコメントを公表した。かみしめるべき言葉である。
事件の全容解明とともに、難病患者や重度障害者の支援の在り方を見つめ直す必要がある。
