地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を大量に排出する非効率な石炭火力発電所について、政府は2030年度までに段階的に休廃止する方針を打ち出した。年内にも経済産業省の有識者会議で具体策をまとめる。
国内にある150基の石炭火力のうち非効率な発電所は120基あり、その約9割に当たる100基ほどが削減対象になる見込みだ。18年度に32%だった石炭火力の発電量割合を26%に抑える目標を掲げる。
縮小方針は、2年前に定めた国のエネルギー基本計画に明記されていた。その時期や削減目標を示すことで「脱炭素」の姿勢を国際社会にアピールする狙いだろう。
だが、完全に周回遅れの感は否めない。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」は既に本格運用が始まり、英国やフランスは数年以内の石炭火力全廃を表明した。石炭生産国のドイツは22年末までの脱原発に続き、30年代の脱石炭を決めている。
これに対し日本政府は、高効率な石炭火力は今後も活用する方針だ。発展途上国への石炭火力輸出支援も要件を厳格化した上で継続する。
石炭は安価で調達しやすい半面、最新の設備でも天然ガス火力の2倍以上のCO2を出す。国内外で事実上の石炭火力維持を図る日本の姿勢に、国際社会の視線がさらに厳しさを増す恐れがある。
経産省は、電力会社ごとに非効率設備の発電量の上限を設け、徐々に引き下げる制度の導入などを検討している。積極的に取り組む企業への経済的支援といった誘導策も考えられる。国内メガバンクが石炭火力新設への資金提供をやめるなどの動きも出てきた。官民を挙げ、脱石炭を促す実効性のある仕組みを早急に練り上げねばならない。
切り離せないのは、石炭に代わる電力供給源の問題だ。政府は風力や太陽光などの再生可能エネルギーや原子力発電で穴埋めするという。
ただ全国の原発は東日本大震災後に全て停止し、再稼働したのはテロ対策などで停止中のものを含めて9基しかない。原発に対する国民の不安は根強い。温暖化防止を名目にした再稼働には慎重であるべきだ。
希求すべきは問題の多い石炭火力や原発依存への回帰ではなく、持続可能な再エネの普及と活用である。送電ルールの見直しや蓄電技術の開発、コスト削減など再エネの課題解決に政策の重点を移す必要がある。
毎年のように日本列島を襲う豪雨災害にも温暖化が影響していると指摘される。脱炭素社会の実現は人類にとって急を要する。日本も石炭火力の全廃にかじを切り、その道筋を明確に描くべきだ。
