社説

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 安倍晋三首相が辞意を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が再発し「国民の負託に自信を持って応えられなくなった」と述べた。今月になり2度、病院で長時間の検査を受け、国民の間でも健康不安が取り沙汰されていた。しっかり治療してほしい。

 首相は2006年に戦後最年少の52歳で政権の座に就きながら、やはり持病の悪化で1年ほどで突然辞任した。投げ出す形となり国政に対する信頼を低下させ、その後の政権交代につながった。

 今はコロナ禍で、多くの国民が不安と生活苦に直面している。辞任が及ぼす影響は前回の比ではない。

 自民党内では次期総裁選びの動きが急を告げる。政治空白の長期化が許されないのは当然だ。

 「安倍1強」とされる長期政権は、政治や行政に多くのひずみを生みだした。次の政権は、その弊害を引き継いではならない。

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 「戦後レジーム(体制)からの脱却」や持論の憲法改正を正面から打ち出し批判を浴びた第1次政権の反省ゆえだろう。第2次安倍政権は、国民に次々と期待を振りまく政策を展開した。

 発足早々、大規模な金融緩和や財政出動など「三本の矢」からなる「アベノミクス」でデフレ脱却を掲げ、経済成長への期待から株価は上昇した。円高傾向も反転した。

 だが実質所得は伸びず、首相が景気回復を唱えても多くの国民は実感を持てない。そこで政権は「女性活躍」「人づくり革命」「1億総活躍」など看板の掛け替えを繰り返す。

 中身が伴わないまま言葉ばかりが上滑りしていることを、やがて多くの国民は見抜き始めた。

「官邸主導」の検証を

 それでも「1強体制」が続いた要因の一つは、各省庁幹部の人事権を首相官邸が掌握し、官僚を支配して政権運営を主導した点にある。度重なる内閣改造では首相と近い顔ぶれが並び、自民党内でも対抗する勢力を抑え込んだ。

 「多弱」と称された野党の大同団結への歩みが遅々として進まず、総選挙のたびに自民大勝を許したのも、政権基盤をいっそう強固にした。

 結果として生まれたのは、省庁も与党も首相やその側近の指示に従うだけでなく、時には先回りして意向をくみ取る「忖度(そんたく)政治」だ。

 森友・加計学園問題や財務省の公文書改ざん、「桜を見る会」など、政権を巡る疑惑の多さも異例だ。しかし、真相解明の先頭に立つべき首相としての責務は、果たされないままだ。会見でも、国民に丁寧に説明する姿勢を示さなかった。

 集団的自衛権の行使を可能にするため安全保障法を成立させた際には、「憲法の番人」とされる内閣法制局長官に自らと考えが近い外務官僚を起用した。国会では野党議員の質問に首相自らやじを飛ばし、憲法で定めた臨時国会の開会要求にも応じようとしない。検察幹部の人事にも介入する。安倍政権は数の力を背景に、民主主義の根幹である三権分立を軽んじてきたといえる。

 コロナ対策にも、1強体制は弊害を及ぼした。2月に突然首相が打ち出し混乱を招いた一斉休校や、全世帯へのマスク配布、感染が収束しない中での「Go To」キャンペーンは、十分な議論を積み重ねず首相に近い官僚らが進言した。

 一方で、首相はPCR検査件数が伸びない理由を「目詰まりがある」とし、積極的に打開しようとはしなかった。休業要請に伴う補償も十分ではないが、法改正の動きも鈍い。

 政策の意義や効果を幅広く議論するより、支持率を意識した予算規模やスピードなどの「やってる感」を重視する。政権が誇った官邸主導は、国民の命や暮らしを守る局面で機能したのか検証する必要がある。

骨太の政策議論こそ

 自民党は9月中に総裁選を行う。来年10月には衆院議員が任期を迎え、次期首相となる新総裁は総選挙をいつ行うかが最大の焦点となる。

 安倍政権の支持率は低迷が続いている。自民党がトップの顔を掛け替えて「安倍政治」を継承しようとする狙いなら、国民はイメージ戦略にすぎないと気づくだろう。

 コロナ対策だけでなく、高齢化や国際情勢の変動の中で日本社会はどんな姿を目指すべきか。そうした骨太の政策論議を繰り広げるのが政権与党の責任である。何より憲法に従い早期に臨時国会を開くべきだ。

 国民の声よりもトップの意向を与党も省庁もうかがう。そうした状況を刷新し、健全な民主主義を取り戻す契機としなければならない。

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