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 女子テニスの大坂なおみ選手が、全米オープンのシングルスで2度目の優勝をした。決勝で元世界1位のビクトリア・アザレンカ選手に逆転勝ちし、栄冠をつかんだ。

 四大大会では2年前の全米、昨年の全豪に続く3度目の頂点で、アジア勢単独最多となった。成し遂げた快挙に心からの賛辞を贈りたい。

 ハイチ出身の父、日本人の母を持つ大坂選手にとって、この大会での7試合は、優勝への過程という以上の意味があった。

 米国の白人警官による黒人男性暴行事件などの人種差別に抗議するため、黒いマスクを着けてコートに入った。試合ごとに用意した7枚に、それぞれ理不尽な暴力の犠牲になった黒人たちの名前を記した。決勝では警官の発砲で死亡した当時12歳のタミル・ライス君の名を伝えた。

 人種差別に対しては、黒人選手が多い米国のスポーツ界から反対の意見表明が相次ぐ。プロバスケットボールNBAや大リーグの試合を延期したり、優勝チームの選手がホワイトハウス表敬を拒んだりしている。

 アスリートは政治や社会問題に発言するべきでないとの批判もある。だが、人種差別は政治的立場を超えて根絶すべき問題だ。大坂選手の行動は世界の人々に向けた強いメッセージとなった。

 決勝は厳しい試合となった。第1セットはあっさりと奪われ、第2セットも先にブレークされたが、ここから粘り強く戦って激戦を制した。大坂選手の精神的な成長ぶりをうかがわせる。

 全米オープンの女子シングルス決勝で、第1セットを失ってからの逆転優勝は26年ぶりという。

 マスクのことを聞かれた決勝後のインタビューで大坂選手は「あなたはどんなメッセージを受け取りましたか? それがより大事な問題。みんなが議論を始めてくれたらいい」と答えた。一人一人に問いかける姿勢が共感の輪を広げた。

 残念ながら、人種差別は米国に限った問題ではない。日本でも、父親がナイジェリア出身のプロ野球楽天、オコエ瑠偉選手が6月、肌の色の違いで受けたつらい体験をツイッターで投稿し、反響を呼んだ。私たち自身の問題として受け止めたい。

 今大会は新型コロナウイルスの影響も受け、無観客で行われた。感染拡大によるツアーの中断期間もあったが、大坂選手には「多くのことを考える機会」になったという。最高峰のプレーは、コロナ禍に見舞われた人々を勇気づけたに違いない。

 大坂選手はテニス界を超えた存在になりつつある。人権問題を含め、社会にメッセージを発信する新たなアスリート像を築いてほしい。

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