大阪市を廃止し、特別区に再編する大阪都構想は住民投票で再び否決された。この10年、関西最大の政令指定都市を揺るがしてきた論争に、市民の選択によって終止符が打たれた。推進、反対両派は結果にきちんと向き合わねばならない。
大阪維新の会代表として構想を推進した松井一郎大阪市長は「民意を受け止める」と敗北を認め、任期満了をもって政界を引退する意向を表明した。代表代行としてともに旗を振った吉村洋文大阪府知事も「挑戦することはもうない」と明言した。
新型コロナウイルス対策をはじめ大阪の再生に向けた課題は山積している。両氏は首長の座にある限り、現行制度の中で府市が連携し関西をけん引するまちづくりの責務を全うしなければならない。
投票率は5年前の前回をやや下回ったものの、60%を超えた。反対と賛成の票差は前回同様わずかだった。市の存廃という難問を再び突き付けられた市民が、コロナ禍にもかかわらず足を運び、迷いつつも1票を投じた姿が浮かび上がる。
しかし、選択の重大さに見合った判断材料が示されたかは疑問だ。
推進派の維新と公明党は、府市の二重行政を解消し、権限と財源を府に集中させることで大阪を東京と並ぶ「副首都」に成長させると訴えた。だがメリット一色で、住民サービスの低下や特別区間の格差拡大などへの懸念に対する説明は十分でなかった。コロナ禍にあえて住民投票を強行する手法も反発を招いた。
投票結果を見ると、ビジネス街や現役世代が多い市北部で賛成が優勢となる一方、高齢者が多く中小企業が集まる地域で反対が上回る構図は前回と変わらない。都構想への根強い不安は、制度案を多少修正しても払拭(ふっしょく)されなかったことが分かる。
一方、反対する自民党、共産党などは独自の財政試算などで問題点を指摘した。だが、「大阪市がなくなる」と危機感をあおるばかりでそれに代わる道を示したとは言えない。
大阪市を残したいという思いと同じくらい、停滞する大阪の現状を憂い、都構想に改革の期待をかけた市民がいる。その事実を忘れてはならない。対立を乗り越え、課題解決に取り組む責任を改めて負ったと肝に銘じるべきだ。
都構想が投げかけたのは、大阪だけの問題ではない。人口減少と高齢化が進む中、政令市と道府県の機能分担のあり方が問われている。都構想とは逆に、政令市の権限を強化し、道府県の役割を担う「特別自治市」の議論も再燃しそうだ。
都構想が浮かび上がらせた課題を、大都市制度を問い直す議論へと深めていくことが重要だ。








