社説

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 新型コロナウイルスの感染が猛威を振るう中で、新年を迎えた。

 新春の冷気に身をすくめながら、私たちは大きな苦難のただ中にいるのだと、改めて痛感する。

 第1波よりも深刻な流行に至った背景に油断と判断の誤りがあったことは否めない。同時に、過密な社会がパンデミック(世界的大流行)に弱いことも思い知らされた。

 コロナ禍もいつかは収まるだろう。この災厄を教訓に、これまでとは別の未来を構想する必要がある。

 立ち止まって考えたい。明日への道しるべを探しながら。

    ◇   ◇

 近年、人工知能(AI)への期待が急速に高まっている。

 囲碁や将棋では、6億通りの手を読むとされる計算能力で人間を圧倒する。大学入試問題でも高得点をたたきだす。いずれ多くの仕事で人間に取って代わるとされている。

 ただ、AIは計算や統計処理に優れていても、意味は理解できない。人間が目的を定めて使いこなしてこそ、価値を発揮する。

AIが予測する未来

 2050年を想定した長期ビジョン作成を進める兵庫県は昨年、初めてAIを用いた未来予測を試みた。

 協力したのは、京都大学の広井良典教授と企業の研究者でつくる日立京大ラボ。公共政策、科学哲学が専門の広井教授は文系と理系を横断する視点でAIを活用する。4年前に発表した日本全体の将来シミュレーションは衝撃的な内容だった。

 進路は大きく「都市集中型」と「地方分散型」に分かれる。都市集中が進めば地方は衰退し、出生率は低下して格差も拡大する。地方に分散すれば出生率が回復し、健康寿命が延びて個人の幸福感も増す。

 分岐点は25~27年ごろに迫っているというのである。

 菅政権は安倍政権から引き継いだ地方創生総合戦略で、東京一極集中の是正を掲げる。だが政府機関の移転は進まず、企業の動きも鈍い。

 これからの5年ほどで流れをどこまで転換できるだろうか。

兵庫に適した分散型

 同じことが兵庫にもいえる。

 県が広井さんらと行った未来予測では、最初の分岐点は国より遅く30年ごろに来る。さらに35年、37年、40年ごろにも別れ目を迎える。

 過去20年の県内の出生数や転入・転出、待機児童数、平均寿命、県内総生産をはじめ105項目ものデータについて、AIが複雑な相関関係を分析した。2万通りのシナリオを描き出した結果を、県職員が研究者らと共に分析、整理した。

 答えは国と同様、地方分散型の姿が最も望ましいとの結論だった。

 最初の分岐点では、農林水産業の活性化や外国人労働者との共生などが焦点になる。子育て支援や健康増進、医療整備はどの時点でも求められ、芸術文化やスポーツに親しめる環境づくりも重要度を増す。

 これらの課題に地道に取り組めばやがて出生率が回復し、人口減に歯止めがかかる。地域の活力も維持でき、生活の質が高まるという。

 一方、都市集中型では企業立地が進み、1人当たりの県民所得は増える。しかし赤ちゃんは減り、商店街は今より衰退する。長時間労働も改善せず、心の健康度も低下する。

 県域が広く風土が多彩な兵庫には分散型は望ましい未来と映る。だが経済の成長、拡大を前提とした今の生き方を見直さねばならない。

 「未来へのルートは決して単線でないことをAIは示した。意識や枠組みの大転換を起こせるかどうかで30年後の姿は大きく変わるのではないか」と県の担当者は話す。

 AIもパンデミックまでは想定しなかった。南海トラフ巨大地震などの災害が起きれば、未来への進路はまた別の形になる可能性はある。

 それでも社会全体が「変容」を迫られていることをAIは指し示している。図らずもコロナ禍で広がったテレワークや地方移住などを、分散型の芽に育てたい。先送りの時間がないことを肝に銘じ、知恵を出し合って、行動を起こしていこう。

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