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 神戸市灘区で神戸製鋼所が進める石炭火力発電所の増設について、環境影響評価(アセスメント)を認めた経済産業相の確定通知は違法として、周辺住民らが通知の取り消しを求めた行政訴訟で、大阪地裁が訴えを退けた。原告は控訴するという。

 判決は、大気汚染で健康被害などを受ける恐れのある住民には「原告適格がある」と認めた。その上で、「経産相の判断が重要な事実の基礎を欠くか、著しく妥当性を欠くものではなく、違法とは言えない」として請求を棄却した。

 争点の一つは、日本のアセスメントで微小粒子状物質「PM2・5」が評価の対象外である点だった。近年、この健康被害が世界的に問題になっているだけに、司法が踏み込んだ判断をしなかったことは残念だ。

 原告は独自の調査を行い、PM2・5によって「年間の死亡者が52人増える」とする試算をまとめた。地元にとっては看過できないデータである。アセスメントが違法でないとしても、行政はこの環境問題への住民の不安を解消する必要がある。

 もう一点注目されたのは、地球温暖化を巡る争いだった。同社子会社は住宅地の近くで石炭火力発電所2基を運転している。そこに2基を増設し、2022年度までの運転を目指す。2基は総出力130万キロワットで、訴状によると年間700万トン近い二酸化炭素(CO2)を出すという。一般家庭150万世帯分に相当する。

 昨年、政府は30年度までに石炭火力発電を段階的に休廃止する方針を出した。高効率な石炭火力は活用を続ける方針だが、その後、菅義偉首相が温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにすると宣言した。

 実質ゼロ宣言は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に基づくものだ。原告側は石炭火力に依存していては目標の達成は難しいと主張し、パリ協定に合わせる国の規定がないことの違法確認も求めていた。

 しかし地球温暖化による被害について、地裁は「個人的利益として自己の判断のみで追及すべき性質のものではない」と原告適格を否定し、その部分の訴えを却下した。

 英国やフランス、ドイツは石炭火力全廃の方針を打ち出している。CO2排出について争う権利がないという門前払いには、疑問を抱く国民が少なくないのではないか。

 判決も、CO2削減に関し「火力発電所の無秩序な新設を抑制することで対処するしかないが、現行法では困難」と法制度の不備を指摘した。

 CO2排出は気候変動による災害の原因になるなど「公害」と言える段階にある。訴訟結果にかかわらず国は温暖化対策に向け、火力発電所設置を巡る法規制に取り組むべきだ。

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