社説

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 10年前の東日本大震災で深い傷を負った東北の鉄道網は復旧を果たした。三陸沿岸北部を走る三陸鉄道は復旧後、2019年の台風で寸断されたが、昨年全線で再開した。

 一方、三陸沿岸南部のJR大船渡線と気仙沼線は、線路跡を専用道とするバス高速輸送システム(BRT)に切り替わった。鉄道復旧には巨額の費用を要するためだ。

 バスでは鉄道の代役は務まらないとの声は根強い。かつて「陸の孤島」とされた三陸沿岸を結ぶ鉄道の敷設は地域の悲願だった歴史が背景にある。住民らの強い思いを郷愁に終わらせず、人口減少社会を見据えた公共交通のあり方を巡る議論につなげなければならない。

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 大船渡線BRTは、岩手県大船渡市の三陸鉄道盛(さかり)駅から、陸前高田など高台に移った市街地を経て宮城県の気仙沼に向かう。便数や停留所が増え、使いやすいとの声も聞く。

 だが速度は鉄道より遅く、信号や渋滞の影響を受ける。車両は路線バスと同じ型で、観光面では地味な印象は否めない。

 当初は代行バスとされたが、元々赤字路線で、JRが総事業費の約6割の負担を地元に求めたことから、沿線自治体は存続を断念した。

 だがその後も鉄道復活を求める署名は1万3千筆を超え、住民らは17年、一般社団法人を発足。自治体への要望や、公共交通とまちづくりを考える講演会などを行ってきた。

 法人の代表理事で地元医師会参与も務める大津定子さん(82)は「観光客誘致にはバスより鉄道の方が有利。高架化して津波避難路の役割も持たせるなど、数十年先を見据えて復活させるべきだ」と力を込める。

鍵となる「上下分離」

 鉄路復活へ、地域の取り組みを後押しする制度も生まれている。

 道路や港湾など公共基盤の災害復旧には、巨額の公費が投じられる。一方で、鉄道の復旧は事業者に委ねられ、再開への道のりは険しい。

 相次ぐ大災害を踏まえ、国は被災路線への補助を拡充した。従来は赤字の事業者が対象で、JR東日本など黒字会社は対象外だった。しかし18年の法改正で、路線の収支が赤字なら黒字会社も対象に加わった。

 長期的な運行確保の計画策定が前提となる。運行設備や車両などを自治体が保有し、運営を事業者が担う「上下分離」方式が一例である。

 19年の台風19号豪雨で千曲川の鉄橋が流出し不通となった長野県の上田電鉄は法改正を利用し、鉄橋を地元自治体が保有する上下分離により、きょう復旧を遂げる。11年豪雨から福島県内で不通が続くJR只見線も上下分離での復旧を目指す。

 鉄道復旧は、事業者や地域が一体とならなければ容易ではない。発災後の混乱の中で動くのではなく、平時から持続させる手だてを練り上げておく。被災を想定して街のあるべき姿を住民と行政が話し合う「事前復興」にも通じる。

地域であり方議論を

 26年前の阪神・淡路大震災では、鉄道の開通区間が延びるたび、復興への希望が高まった。目的地まで早く着けるなどの利点に加え、人やモノ、地域間の交流に不可欠な存在だと多くの人が痛感しただろう。

 東日本大震災の被災地復興に、三陸鉄道は欠かせない存在となっている。震災で沿線地域の過疎化に拍車がかかり先行きが見通せない中、イベント列車や物販などで売り上げを伸ばし、注目を集める。交流人口の増加にも大きな役割を果たす。

 一方、BRT化された気仙沼線沿線の宮城県南三陸町では19年末、町議会が全会一致で鉄路復活を求める要望書を採択した。気仙沼市も「将来世代に希望を繋(つな)ぐため、復活の可能性を残す」との見解を示す。

 被災地に限らず、人口減で全国の鉄道路線の多くが苦境にあえぐ。存廃が取りざたされる路線もある。

 一度はがされたレールは簡単には戻らない。鉄路を残すのか、新たな道を探るのか。地域の実情に応じた交通機関の選択を、普段から議論しておきたい。

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