社説

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 東日本大震災では、ピーク時に7万3千人近くが県境を越えて避難した。復興庁によると岩手、宮城、福島の被災3県を離れ、県外で避難生活を送る人は、今年2月時点でも約3万3千人に上るとされる。

 このうち東京電力福島第1原発事故が起きた福島県からが約2万9千人と突出している。

 国が指定した避難指示区域から強制的に避難させられた人もいれば、区域外でも放射線被ばくを懸念して自主的に避難した人もいる。10年たっても自宅が帰還困難区域にある人、避難先で生活基盤ができて定住を決めた人など事情はさまざまだ。

 被災地にとどまった人に比べて必要な情報や支援が届きにくく、経済的に困窮したり、地域社会から孤立したりする人も少なくない。

 問題は、こうした県外避難者の現状を国やほとんどの自治体が正確に把握できていない点にある。

 国策として進めた原発の事故さえなければ、元の住まいを離れずに済んだ人々である。その動向を見届けるのは国の責務ではないか。

 国は発災直後、避難先が避難前の市町村に通知される「全国避難者情報システム」を立ち上げた。だが、登録は任意で転居のたびに自ら届けないと情報は更新されないため、実態との乖離(かいり)が指摘されている。

 一方、被災地では住民票を移した時点で「避難者」から外す町と、震災時の住民が元に戻らない限りは避難者と位置付ける町がある。避難先でも自治体によって集計や支援の考え方はばらばらだ。

 これでは県外避難者の全体像は見えてこない。国は実態調査を急ぎ、避難した場所によって格差が生じない仕組みを構築するべきだ。

 関西学院大災害復興制度研究所(西宮市)は昨年、自主避難を含む原発避難者へのアンケートを実施し、約700人から回答を得た。

 この10年で世帯収入や雇用条件が悪化し、離婚などによる家族の分離が進んだ。特に、公的支援がほとんどない自主避難のケースに多い母子避難者の苦境が目立つ。主任研究員の斉藤容子准教授は「逃げる権利を明確に定め、避難に伴う損害を補償する制度が必要だ」と指摘する。

 同研究所は避難先で行政サービスが受けられる「準市民制度」や、生活安定へ「最低所得補償」などの創設を提言しており、検討に値する。

 想定される南海トラフ巨大地震では避難はさらに広域化し、行政の目が届かない避難者が増える恐れがある。国は今もなお全国に残る避難者の声に耳を傾け、自治体と連携して支える仕組みを整えねばならない。

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