長崎県の雲仙・普賢岳で大火砕流が発生してきのうで30年になった。43人の死者・行方不明者が出た島原市で追悼式が開かれ、遺族代表の女性が「災害の脅威を新しい世代へ伝え、風化させないよう努めていく」と述べた。国内ではさまざまな自然災害が多発している。噴火の記憶を社会全体で改めて共有したい。
火砕流で犠牲になったのは報道陣と地元の消防団員、警察官、タクシー運転手らだった。報道陣以外の大半は、避難勧告を無視した取材に巻き込まれる形で命を落とした。
取材拠点の「定点」は災害時のままだったが、今春ようやく被災遺構として整備された。長い年月がかかったのは、メディアに対し遺族らが複雑な感情を抱いてきたためだ。
取材の在り方が厳しく批判されたことをメディアは繰り返し検証し、戒めとしていかねばならない。
大火砕流は、普賢岳の山頂付近に出現した溶岩ドームが崩落し、数百度の火山灰やガスなどが猛烈な勢いで山肌を駆け下りて起きた。
教訓は多岐にわたる。発生を知って逃げるのではなく、危険なエリアに近づかない。普賢岳の関係者は、火砕流の恐ろしさが周知されていなかった反省から、迅速な避難の大切さを国内外に発信した。住民主体の復興や被災者支援の新たな取り組みにより「災害対応の原点」とも評される。今なお学ぶべき点は多い。
また普賢岳以降は火山防災の在り方が大きく変わった。気象庁は2007年から、火山活動の状況を「避難」など5段階で示す「噴火警戒レベル」の運用を始めた。
15年に施行された改正活火山法は、全国に50ある常時観測火山周辺の190市町村に対し、住民の避難計画作りなどを義務付けている。しかし今年1月末時点で、策定を完了したのは7割超にとどまる。対策を整える作業を急ぐべきだ。
国内の活火山は111に上るが、近畿地方には存在しない。だが火山活動は地震との関わりが深く、降灰による広域の被害もある。
実際に火山災害に遭遇する可能性が高いのは登山や観光だろう。7年前には御嶽山(長野・岐阜県境)が噴火し、登山者ら63人が犠牲になった。3年前の本白根山(群馬県)の噴火では1人が亡くなった。
富士山の地元協議会は3月、噴火時のハザードマップを17年ぶりに改定した。火山を訪れる際はこうした資料を確認することが望ましい。
火山は温泉などの恵みや憩いをもたらす一方で、時として人に牙をむく。私たちは世界有数の火山国に暮らす。噴火災害を人ごととして捉えず、火砕流からの節目を、火山の危険性を再確認する契機としたい。
