社説

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 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、東京五輪・パラリンピックの開催により感染リスクが高まるとの発言を繰り返し、波紋を呼んでいる。

 専門的な見地からの重要な指摘にもかかわらず、菅義偉首相は「参考にする」と述べるにとどめている。政府は態度を改め、尾身氏の警鐘を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 尾身氏は以前から開催に伴うリスクについて指摘していたが、今月2日の衆院厚生労働委員会で、「今の状況で(大会を)やるのは普通はない」と明言した。その上で、もし開くのなら「規模をできるだけ小さくして、管理体制を強化するのは主催者の義務」と述べた。

 翌3日の同委員会でも「やるなら強い覚悟が必要だ」と踏み込んだ。

 こうした懸念は、不安や疑問を感じる国民の感覚に近く、分科会メンバーの多くも同調したという。

 五輪・パラリンピックでは10万人近い選手や関係者、報道陣らが来日する予定だ。有観客なら全国から東京に人が集まる。夏休みやお盆も重なる。観戦イベントなどを含め「お祭りムード」となり、人出や人の移動が大幅に増える可能性がある。

 インド株の脅威も迫る中、入国前後の検査やワクチン接種などで選手らの感染防止はコントロールできたとしても、関係者の行動制限は実効性が不安視されている。

 尾身氏ら専門家有志は20日までに、開催に伴う感染リスクについて提言をまとめる意向だ。開催の是非には触れない方向とされるが、有観客と無観客に分け、具体的にリスクを分析、評価するという。国際オリンピック委員会(IOC)に伝えることも希望している。

 だが政府は、五輪については分科会の所管外とし、田村憲久厚労相にいたっては「自主的な研究成果の発表」と冷ややかだ。緊急事態宣言で国民の自由を制限する際には専門家の権威に頼るのに、都合の悪い忠告には耳を貸そうとしない。これでは開催への理解は広がらない。

 政府の諮問がない中、あえて提言に踏み込むのは、専門家としての強い危機感からだ。政府に助言する立場にいながら、度重なる感染拡大を防げなかったことへの反省も込められているのではないか。

 「安全、安心な大会を実現する」というなら、政府は専門家の提言に正面から向き合い、東京都や大会組織委員会とも共有する必要がある。観客動員の判断にも生かさなくてはならない。

 首相は「何のために開催するのか」という尾身氏の問いに答えるべきだ。それができないようでは、国民の命と健康を守れるはずがない。

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