沖縄は23日、沖縄戦で犠牲になった人々を追悼し、平和を願う「慰霊の日」を迎えた。76年前、太平洋戦争末期に沖縄を巻き込んだ地上戦で、旧日本軍の組織的な戦闘が終結したとされる日だ。
激戦地だった糸満市摩文仁(まぶに)の平和祈念公園では、沖縄全戦没者追悼式があった。例年は5千人程度が参列するが、今年も新型コロナウイルスの影響で遺族ら36人に絞られた。
式典の規模は小さくとも、沖縄の人たちは、悲惨な戦時下での先人の苦難を改めて心に刻んだ。私たち本土の人間も思いを重ねたい。
沖縄戦では日米合わせて20万人以上が戦死したとされる。一般県民約9万4千人、県出身の軍人軍属は2万8千人余りで、県民の4人に1人に及ぶ。軍が民間人を守るどころか犠牲を強いて持久戦を続け、本土防衛の「捨て石」にした史実は銘記しておかねばならない。
特に糸満市など本島南部には軍民を問わず多数の遺骨が眠る。にもかかわらず、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う軟弱地盤改良工事で、政府は南部の土砂を採取し、埋め立てに使うことを検討している。遺族の感情を踏みにじり、戦争への反省や戦没者への敬意がみじんも感じられない暴挙というしかない。
沖縄では政府への抗議の声が広がっている。沖縄県議会も4月、遺骨などが混じった土砂を埋め立てに使うのは「人道上許されない」とする意見書を全会一致で可決した。これに対し、菅義偉首相は「(土砂の調達先は未確定で)防衛省が適切に判断する」と述べるにとどめる。
追悼式で、玉城デニー知事は「国の責任で遺骨の収集を」と求めた。政府は南部での土砂採取計画を撤回し、遺骨収集を急ぐべきだ。
沖縄県には、今も在日米軍専用施設面積の約70%が集中する。住民は軍用機の爆音に日夜苦しみ、米軍関係者による事件や事故の被害を受け続ける。
基地負担の軽減は急務であり、とりわけ「世界一危険」とされる普天間飛行場の返還は一刻の猶予も許されない。辺野古埋め立てには2019年の県民投票で「反対」が7割を超えた。政府は「辺野古移設が唯一の解決策」という考えに固執せず、日米両政府と沖縄県の協議の場を設け、基地の整理・縮小に向けた道筋を模索しなければならない。
公平さに欠ける日米地位協定の問題も看過できない。米軍機は飛行制限を守らず、米兵が犯罪を起こしても日本の捜査権は制約される。協定の改定も政府の責務である。
沖縄は来年5月、本土復帰50年を迎える。県民の怒りに耳を傾け、基地問題解決への歩みを進めたい。
