社説

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 広島への原爆投下後、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに、国が定めた「特例区域」の外だったために援護を受けられないのは違法とした訴訟の控訴審判決で、広島高裁は広島県と広島市、国側の控訴を棄却した。84人の原告全員に被爆者健康手帳の交付を命じた。

 昨年7月の広島地裁判決に続き、特例区域より広範囲に雨が降り、原告が被爆したと判じた。一審は特定の病気発症を認定の条件にしたが、高裁は発症がなくても認め、さらに救済に踏み込んだ。被爆者の救済拡大に消極的な国の姿勢に見直しを迫る画期的な判断である。

 2015年の提訴後に10人以上の原告が亡くなっている。国は被爆の実情に向き合い、上告を断念して早期解決にかじを切るべきだ。

 国は1976年、黒い雨が強く降った範囲を特例区域に指定した。長さ約19キロ、幅約11キロの楕円(だえん)状で、爆心地周辺の「援護区域」の外側に当たる。投下時などに特例区域内にいて、特定の病気になれば手帳が交付される。原告は同区域外にいた。

 注目すべきは、被爆者援護法に基づく認定を巡る判断だ。国側は科学的知見による高いレベルの証明を求めたが、高裁は「原爆の放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と退けた。

 その上で、黒い雨に直接打たれた場合だけでなく、放射性物質が混入した井戸水や野菜を口にした内部被ばくでも健康被害を受けた可能性があると判断し、原告らが被爆者であると結論付けた。

 一審と二審で原告の主張が全面的に認められたことを、国は重く受け止めなければならない。

 厚生労働省は一審の敗訴後、特例区域見直しに向けた有識者の検討会を設けた。降雨域と健康影響を検証する方針だが、委員から検証方法への異論もあり、いつ結論が出されるかは見通せない。高裁判決は、区域の画一的な線引きそのものに疑問を呈したと言えるのではないか。

 今回の判決後、湯崎英彦知事は上告を望まない意向を示し、松井一実市長も「降雨地域の拡大を目指す市の思いを訴える立場で(国などとの)協議に臨みたい」と述べた。

 原爆投下から、間もなく76年となる。原告は高齢化が進み、救済に残された時間は少ない。被爆の対象区域拡大は長崎でも要望されている。菅義偉首相は上告断念を指示し、救済に向けた政治判断をすべきだ。

 被爆者援護法について、高裁判決は「戦争の主体だった国が自らの責任で救済を図る一面がある」と指摘した。国はその原点に立ち返り、この判決を被爆者救済の大きな転機にしなければならない。

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