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 東京五輪がきょう開幕する。

 新型コロナウイルスの感染拡大で五輪史上初めて1年延期された。それでも感染は収束せず、大半の会場が無観客となった。

 専門家は、現状での開催は「普通はない」と警告していた。共同通信が今月実施した世論調査で、五輪による感染拡大の不安を感じる人は87%、中止すべきとした人も31%だった。異論を押し切り、政府と都、大会組織委員会は開催を断行する。

 開幕目前で、開閉会式の演出を務める小林賢太郎氏が過去にホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)をコントの題材にしていたとして、解任された。開会式の楽曲を担当する小山田圭吾氏も、いじめ告白問題で引責辞任した。恥ずべき事態だ。

 高揚感よりも不安や反感が覆い尽くす中で、批判を浴びる異例の大会となる。改めて開催の意義を問い直さなければならない。

    ◇

 東京都では緊急事態宣言が発令され、新規感染者数は連日千人を超す。夏休みも重なり、人の流れを抑えるのは容易ではない。8月には東京の感染者が過去最大の3千人規模になるとの試算もある。

 来日した選手ら大会関連の陽性者も続出し、1日以降で80人を超えた。入国前検査などで水際対策を徹底すると政府は強調したものの、十分とは言えない。組織委は陽性者の詳細について公表しない方針だが、国民の懸念を無視した対応であり、早急に改めてもらいたい。

 入国後は外部との接触を絶つ「バブル方式」で感染を防ぐと政府や組織委は説明してきた。ところが関係者がコンビニを利用できるなど、対策のほころびが目立つ。菅義偉首相は「国民の命を守る」と繰り返し述べてきたが、不安は募るばかりだ。

 「平和の祭典」が人々の健康や生命を脅かしかねない。感染状況がさらに悪化し、医療体制が逼迫(ひっぱく)するような事態になれば、競技の縮小や大会の中断を決断すべきである。

「打ち勝つ証し」遠く

 五輪招致に当たり、当時の安倍晋三首相は、福島第1原発の汚染水について「状況はコントロールされている」と大見えを切った。東日本大震災からの「復興五輪」を掲げるためだったが、当初から政治が影を落とし、開催の意義は揺らいだ。

 コロナ禍は、何のため、誰のための五輪かを問い掛けた。大会は政治判断で1年延期され、後を継いだ菅首相は「コロナに打ち勝った証しに」と看板を掛け替えた。だが感染収束には程遠く、ワクチン接種も他の先進国から遅れた。海外客の受け入れを断念し、最終的にほとんどを無観客とせざるを得なくなった。

 首相の発言も「世界が一つになり、難局を乗り越えていけることを発信したい」と変わった。しかし実態は、五輪への賛否を巡って国民が分断しかねない状況にある。

 大会は準備段階から、新国立競技場計画の白紙撤回や、盗用疑惑による公式エンブレム再公募などの問題が相次いだ。さらに、組織委会長だった森喜朗元首相の女性蔑視発言による辞任、容姿を侮辱する演出を発案した開閉会式演出の統括役の辞任-と不祥事にまみれた。

 五輪憲章は「人間の尊厳」を掲げ、いかなる差別も禁じている。ホロコーストの犠牲者を侮辱するようなせりふを書いた小林氏、障害のある生徒へのいじめを反省なく語った小山田氏の起用を含め、日本の人権意識の低さを世界中にさらけ出した。組織委などの責任は重大である。

選手の命と健康守れ

 一方で、各国の選手たちにとって五輪が夢の舞台であるのに変わりはない。制約は多いが、持てる力を存分に発揮してもらいたい。

 1年延期された上、中止すべきとの声も大きかった。直前まで開催されるかどうか判然としない中、厳しい練習に耐えるには相当な負担があったはずだ。一人一人が積み重ねた努力は等しくたたえられてよい。

 組織委は可能な限りの感染対策を尽くし、選手の命と健康を守ってほしい。猛暑も続き、熱中症対策にも工夫が要る。今は大会が無事に終わることを祈るほかない。

 噴出する全ての問題に共通するのは、政治が深く関与してきた弊害が垣間見えることだ。五輪の商業主義や国際オリンピック委員会(IOC)役員などの厚遇にも厳しい視線が注がれている。政府やIOCは真摯(しんし)に受け止めなければならない。

 紆余(うよ)曲折を経た東京大会が、「平和でよりよい世界の実現に貢献する」という五輪の原点に立ち返る契機になることを痛切に望む。

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