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 菅義偉首相が、17日告示の自民党総裁選に立候補せず、総裁任期が切れる9月末で退任する意向を表明した。昨年9月に発足した菅内閣はわずか1年で幕を閉じる。

 新型コロナウイルスの感染「第5波」で重症者数が増え続け、入院治療を受けられずに亡くなるケースが相次いでいる。21都道府県に出ている緊急事態宣言は出口が見えない。

 「コロナ対策が最優先」との言葉とは裏腹に、状況を打開できないままの唐突な退陣劇は無責任というほかない。

 首相を追い込んだコロナ対策の行き詰まりは、安倍前政権から踏襲した国民の不安や疑問に向き合わない独善的な姿勢が招いたとも言える。それを追認してきた自民党政権そのものを見直さなければならない。

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 菅首相はきのう、立候補見送りについて「コロナ対策に専念するため」と強調した。だが内実は、思うように支持が広がらず、厳しい情勢に追い込まれての再選断念である。

 首相は前日まで立候補の意向を党幹部に伝えていた。後ろ盾だった二階俊博幹事長の交代を決め、総裁選直前の党役員人事と内閣改造を画策するなど、再選に向けた身勝手な動きが見られた。一時は、今月中旬に衆院を解散し、総裁選を先送りするとの臆測まで広がった。

 なりふり構わず「延命策」に走る首相の姿が、コロナ禍にあえぐ国民を失望させ、党内の猛反発を招いたのは当然である。

コロナ対策への不信

 菅内閣は発足当初から「コロナとの闘い」を強いられた。だが、緊急事態宣言を繰り返しても感染拡大に歯止めがかからず、観光振興策「Go To トラベル」事業を専門家らの忠告を押し切って進めるなど、場当たり的な対応に終始した。

 首相は当初、東京五輪の成功とワクチン接種の促進をアピールし、衆院解散・総選挙を乗り切り、その勢いで総裁再選を果たす筋書きを描いていたとされる。感染状況の悪化とともに五輪開催の慎重論が高まり、ワクチンの供給遅れで不満が高まったのは誤算だっただろう。

 政権発足当初は60%を超えていた内閣支持率は、直近の世論調査で30%台前半まで低下し、不支持率が5割を超えた。地元の横浜市長選で首相が支援した候補者が惨敗するなど、国政、地方ともに注目の選挙で自民党の敗北が続いた。

 ところが首相は、厳しい現実に向き合うどころか、緊急事態宣言などの対象を広げた8月25日の会見で「明かりははっきりと見え始めた」と述べた。医療の崩壊に直面し、長引く自粛生活に苦しむ人々の実態が見えていないとしか考えられない。

 「国民のために働く内閣」を掲げながら、根拠の乏しい楽観論に頼り、国民に響くメッセージは発せられなかった。原稿の棒読みやあり得ない言い間違い、読み飛ばしなど、資質が疑われる場面も目立った。

 コロナ対策に空白が生じないよう、任期の最後まで全力を尽くすのが首相の最低限の責務である。

自民党の姿勢を問う

 政治姿勢も問われる。菅首相が就任早々に打ちだした日本学術会議の会員候補6人の任命拒否は、「学問の自由」を脅かすと批判を浴びたが、いまも撤回していない。

 「桜を見る会」の費用補填(ほてん)問題や、公文書改ざんを強いられた元近畿財務局職員が自死した森友学園問題など、安倍晋三前首相の「負の遺産」の清算に取り組む姿勢は見られなかった。首相の影響力が強い総務省の高額接待問題なども発覚した。

 国会での論戦を避ける姿勢は安倍氏以上に顕著だったと言っていい。コロナ対策の審議は担当相らに任せ、首相が答弁に立つ場面は少なかった。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求にも応じようとしない。

 自民党が、時には苦言を呈して政権を支える役割を果たしてきたのか甚だ疑問だ。「安倍1強」と称された長期政権に甘んじ、国民の声を吸い上げる政権党としての努力を怠ってきたのではないか。

 総裁選に立候補を表明している岸田文雄前政調会長は、コロナ対策で「現場の悩みや苦しみが届いていない」と指摘し、「権力の集中と惰性を防ぐ」と党改革を提唱した。高市早苗前総務相、河野太郎行政改革担当相も意欲を示している。

 どの「顔」なら衆院選に勝てるかではなく、政権党として欠けているものは何か、どう変わるべきかが争点である。自民党は、開かれた政策論争を通じて国民の信頼を回復する場としなければならない。

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