社説

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 自民党総裁選で、岸田文雄前政調会長が決選投票の末、勝利した。10月4日召集の臨時国会で、菅義偉首相の後継となる第100代首相に指名され、新内閣を発足させる。

 新型コロナウイルス緊急事態宣言はきょうで全面解除されるものの、収束はなお見通せず、経済や暮らしへの影響が続く。安倍、菅両政権の場当たり的な対応に国民の不満は鬱積(うっせき)し、政治への信頼が著しく損なわれている。

 危機の今こそ、国民の声に耳を澄ませ、開かれた議論に臨む姿勢が求められる。異論を謙虚に受け止め、これまでの「説明しない政治」に終止符を打つ覚悟はあるのか。岸田氏に課せられた重い宿題である。

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 今回の総裁選は380票の国会議員票とほぼ同数の党員・党友票の計762票で争われた。第1回投票で岸田氏は河野太郎行政改革担当相を上回ったが過半数に届かず、議員票の比重が高い決選投票で河野氏に大差をつけた。高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行は及ばなかった。

 世論の動向を反映しやすい党員・党友票では河野氏がトップだった。衆院選を目前に、党改革を旗印とする中堅・若手議員が発言力を増し、大半の派閥が自主投票を認めた。だが最後は権力維持を優先する「派閥の論理」が、刷新を求める地方の声を抑え込んだ格好だ。

 最重要課題であるコロナ対策では、岸田氏は感染症対応を一元的に担う「健康危機管理庁(仮称)」の創設など中長期的な課題への言及が多かった。しかし直面するのは、感染防止と社会経済活動をどう両立させるのかという喫緊の課題である。

 菅政権は感染力の強い変異株の脅威を見誤り、医療提供体制の確保が遅れ、緊急事態宣言を繰り返した。「失政」を検証し、反省点や教訓を導き出すことが欠かせない。

 ワクチン接種が進んでも、感染「第6波」に備える医療や検査の体制強化と、行動制限の段階的緩和などの出口戦略で成果を出せなければ、国民の不満は再び高まりかねない。

格差是正に力尽くせ

 コロナ禍は深刻な経済格差をあらわにした。格差拡大を助長してきたのが安倍前政権から9年近く続く経済政策アベノミクスである。

 競争原理や効率優先の新自由主義が色濃い政策で、恩恵は大企業や富裕層に偏り、地方や中小企業は果実が届いた実感を得られていない。

 これをどう総括するかは総裁選の大きな論点だった。岸田氏は「新自由主義からの転換」を唱え、格差是正へ「分配なくして成長なし」をアピールした。転換をうたうのであれば、アベノミクスの負の側面をしっかりとたださねばならない。

 財政再建から距離を置いているのも気がかりだ。岸田氏は数十兆円規模の経済対策を打ち出すが、財源を安易に国債に頼るのは無責任ではないか。負担を巡る議論から逃げることなく、国民が安心して暮らせる展望を示す。中長期の国家ビジョンについても明確に語ってもらいたい。

 原発やエネルギー政策を巡る論戦が注目されたのは今回の特徴だ。

 岸田氏は原発再稼働を容認するなど従来の政策を継続する立場だが、使用済み核燃料の処理などの懸案を棚上げしたままでは、脱炭素や再生可能エネルギー拡大への道筋は描けない。脱原発を含めたエネルギー政策の見直しは急務である。

忖度排し有言実行を

 総裁選は、長期に及んだ「安倍・菅政治」を総括する重要な機会となるはずだった。森友学園問題での公文書改ざんや「桜を見る会」を巡る疑惑、自民党議員らによる「政治とカネ」を巡る不祥事が相次いだにもかかわらず、両政権と自民党は国民への説明責任に背を向けてきた。

 岸田氏は党改革を公約の柱に据え、総裁就任後も「生まれ変わった自民党を示す」と述べた。しかし森友問題では、再調査に前向きな発言をその後、後退させている。党内で影響力を保つ安倍晋三前首相への忖度(そんたく)を疑われても仕方がない。

 岸田氏は就任後の会見で「政治が国民の心に響かない。民主主義が危機にある。説明責任を果たす」と強調した。安倍前政権の中枢を担ってきた責任を自覚し、疑惑の解明に真摯(しんし)に取り組むべきだ。

 党役員人事も焦点だ。約束した中堅・若手の登用を堅持できるかが、党の自浄作用を取り戻せるかどうかの最初の試金石となる。

 岸田氏は「特技は人の話を聞く力」だと繰り返す。聞くだけでなく、その声を生かした政策をどう実行するかが、新総裁の責務である。

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