社説

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 東欧の国ベラルーシはこの時期、日中でも気温が零度近い。夜は氷点下の厳しい冷え込みとなる。

 そんな過酷な環境下で、約2千人もの人々が命や健康の危機にひんしている。中東からの移民・難民で、欧州連合(EU)への入域を目指した。しかし入り口となるポーランド国境で入国を拒否され、行き場をなくした形だ。

 森の中で野営したり、物流倉庫に身を寄せたり。十分な食べ物もなく亡くなる人が出ているという。

 幼い子どもを含む家族連れも少なくなく、国連難民高等弁務官事務所が実情を調査するなどの緊急対応に乗り出した。国際社会は人道支援を急ぐ必要がある。日本も物資の提供など、できることはあるはずだ。

 ただ、中東難民が東欧に押し寄せた背景には、EUと対立するベラルーシ政府による意図的な誘導があったとされる。事実であれば、難民を政治利用した許し難い行為だ。

 ベラルーシ政府は当事国として、現地にとどまる人を保護し、解決の道を探る道義的責任がある。

 今回の移民・難民はイラクやシリアなどから来た人たちで、イラクで迫害された少数民族クルド人が目立つ。中でもヤジド教徒は過激派組織「イスラム国」の殺害、拉致の対象とされてきた経緯があり、大半がドイツでの保護を求めている。

 仲介業者に手配を依頼し、トルコなどでベラルーシの観光ビザを取得する。入国後はポーランド国境に運ばれるが、そこでEU入りを阻まれる-。当事者の声から浮かび上がるのはそのような経緯である。

 テロなどの戦火で荒廃した母国を離れ、安住の地を求める。そうした人々の必死の願いを食い物にする業者の振る舞いは、実に罪深い。

 難民らはベラルーシで規制を受けず、「兵士に案内された」と語る人もいる。国営旅行会社など国家機関の関与が疑われるゆえんだ。

 同国は「欧州最後の独裁者」とされるルカシェンコ大統領の統治が約25年も続いている。5月には他国の民間旅客機を強制着陸させ、搭乗していたジャーナリストを拘束するなど、強権姿勢が際立っている。

 ルカシェンコ氏は否定するが、EUや国内の反政権派は「政権が難民を呼び込み、ベラルーシに経済制裁を科している欧州側に圧力をかけている」との見方が有力だ。いずれにしても、この人道危機を打開するには、ベラルーシが難民支援に力を尽くし、国連機関や非政府組織(NGO)などと連携すべきである。

 イラク政府が用意した特別機などでいったん帰国する動きも出始めた。あらゆる手だてを講じ、凍土に取り残された人たちを助けたい。

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